６３年３月７日録音。魅惑のバリトン・ヴォイスとコルトレーン・クァルテットの優しい、包み込むようなサウンドが混然と溶け合って、静かで甘美な秋の夜にふさわしい音楽を創造した、ジャズ・ヴォーカルの金字塔的な作品。

コルトレーンは前人未到の音を求めて前進中だったが、マウスピースのトラブルがあったとはいえ、バラードものの企画によく応えたものだと感心する。コルトレーンの求める音には常に歌心があったことの証だ。

「バラード」と並んで比類のない美しいサウンドに満ちた素晴らしいアルバムで、ジャズ入門者向きであるとともに、何度繰り返しても飽きない奥深さがある。

ハートマンのヴォーカル、それに寄り添うコルトレーンのサックスだけでなく、Ｍ５でのマッコイ・タイナーの流麗なピアノ等、クァルテットの他のメンバーの的確なサポートも非の打ち所がない。

本作は廉価版だが、２４ビット・マスタリング＋ルビジウム・クロック・カッティングによる高音質に満足できる。ただ、パッケージ裏面に０３年と印刷されているのが気になる。