書名にひかれて購入しました
★★★★☆
著者の樽見博氏は、法政大学卒業後、日本古書通信社に入社し、「日本古書通信」の編集等に従事してきた人です。古本のプロとしての経験に裏付けられた記述で興味を持って通読しました。
古書、古典籍へのアプローチは、門外漢にとってなかなか難しいものがあります。コレクターや売買に関わる人以外とっては、その値打ちは計りしれません。
本書はそんな古書に見せられた筆者がもてる薀蓄を披露し、その魅力的な世界の扉を一般の人に開放した本と言えましょう。この本に記載された古書のほとんどを知らないものですから、評価しづらいですが、実に丹念に調査し、それぞれの古書にまつわる話を数多く展開していると感じました。
ただ惜しむらくは、14頁に記載されている浮世絵の価値でもそうですし、古書目録の点でも感じたのですが、作品の値打ちは値段だけによるものではありません。どうしてもその値踏みの評価が作品の評価につながる点が同感できませんでした。釈迦に説法の類ですが、希少価値と作品の価値は当然違うもので、その古書本来の魅力をもう少し伝えてほしかったと思います。時代の影響と古書の価格の変動は当然で、それゆえ先見の明が必要な業種ですね。一時、復刻ブームが訪れたことがあります。本の値打ちは変わりませんが、古書の値段は相当下がりました。普及という点では喜ばないといけないことだと思いますが。
古書・古典籍を語る場合外せない反町茂雄氏にもかなりの頁を割いて引用されています。反町氏の著作を何冊も過去に読んだことがあり、その魅力溢れる文章と考え方に惹かれた者として懐かしく読みました。
なお、28ページに記載されている松方コレクションの所蔵先は東京国立博物館ではなく、国立西洋美術館ですので、一応指摘させていただきます。