真の女優
★★★★★
奇跡のような、本物の女優達の競演が見られます。
山田五十鈴の芸者の置屋のおかみの妖艶さと身のこなし。
栗島すみ子の老練で余裕の演技。
田中絹代の、つつましさと母性と優しさを持つ女中の存在感。
売れない年増芸者役の杉村春子の芸達者ぶり。
高峰秀子の現代的で率直な娘の台詞の歯切れの良さ。
岡田茉莉子の可愛らしさと、はすっぱさ。
その他の脇役陣の演技の素晴らしさも、枚挙すればきりがないほどです。
おかみの人の良さが災いし、人を見る目と男運のなさで、傾いていく置屋「つた乃屋」。
芸者の置屋の日常が描かれています。脚本も演出も見事です。飽きさせません。
若さゆえの率直な物言いの高峰と、したたかな年増芸者の杉村の派手な口げんかの場面は、思わずうなります。
杉村が年下の男のために節約し、コロッケをおかずにするシーンは、女の悲哀がよく表れています。
また、金の工面のために、プライドを捨てて、昔のパトロンを待つ間の山田五十鈴の表情とたたずまいが絶品。このシーン以前の置屋のおかみとは、全く違う女の表情です。
山田と杉村の三味線の競演も素晴らしい。
真の女優が、たくさんいた時代の、邦画の傑作です。
女性版 七人の侍
★★★★★
この映画の素晴らしさを的確に指摘した多数のレビューが既にあるので、あえてユルく書かせていただく。
主な出演女優の顔ぶれは、
山田五十鈴、田中絹代、杉村春子、高峰秀子、栗島すみ子、岡田茉莉子、中北千枝子
ってあなた・・・。最初は、何かの間違いなんじゃないかと思ってしまいましたよ。もちろん、「子」がつく名前の女優が多いから何かの間違いなんじゃないかと思ったわけではない。余りの豪華メンバーに目を疑ったのである。
しかも、この七人が協力して「斜陽の芸者界」を救おうなんてことはしない。開始直後から、武者修行よろしく一騎討ちを始める。
共演などといえば聞こえはいいが、決してそんな生易しいものではない。気の強い女優ばかりワザと集めて(だから優しさ溢る香川京子などは絶対に出てこない)、現実で演技を競い合わせることでプライドをくすぐり、潰しあう女の戦場「斜陽の芸者界」を完璧に描ききるのである。
『流れる』という題名は、もののあはれを感じさせてまったく絶妙であるが、同時に、女達の生の習性「裏では流れに逆らってしのぎを削りまくる」という真実の姿を、サラリと覆い隠す仮装としても、これ以上無い効果を発揮している。
ちなみに、本物の『七人の侍』である加東大介、宮口精二も、ある意味「斬られ役」として出演していて、いい出汁になっている。
信じられないのは、これだけの群像劇でありながら、それぞれの女優演じる登場人物の個性がくっきりと記憶に残る(全員巧い)ということである。
それから、杉村春子がコロッケにかけるソースや、氷をねだるシーン。山田五十鈴が「じゃ、私ちょっと出かけてくるからね」と言ってタバコをチョイと吸った後に火を消すシーンなど、何気ないディテールがいくつも、いつまでも記憶に残る。ストーリーよりもむしろ、ディテールにこそこの映画の真髄があるような気がする。
そして、セット(美術)。もはや褒め言葉すら見つからない完成度。成瀬の演出は、相変わらずのキレキレ。等、文句の付け所が一つもない。
最後に、この映画は当時としては珍しく、18R指定での公開となった。なんでも、「社会に出る前の若者の心の裏側をどす黒く染めてしまう可能性がある」との配慮からであったらしい(ウソ)。
流れる
★★★★☆
柳橋の花街はなくなってしまったので、貴重な風俗史料です。杉村春子は感心しませんが。栗島すみ子は着物の着付、言葉、身のこなしなど柳橋の東京芸者のありし日の姿を彷彿とさせます。大変良い映画とおもいます。
感嘆
★★★★★
キャストをみて、そして映像を追いながら
田中絹代、杉村春子、山田五十鈴が同じワンシーンのなかでうごいている
もうそれだけである程度映画をかじっている方なら感動というか、驚愕ものですよね
それに高峰秀子、岡田まりことくるんですから...
成瀬の溢れんばかりの自負、静かな傲慢を感じずにはいられません
こんなキャストで駄作を作るわけにはいかないですよ
ですが完璧なのです
何から何までが...
巨匠の作品とはこういうものだということを痛感しました
忘れられない
★★★★★
なかなか深いと思った。皆さんが書かれている通り、いわゆる「起承転結」が用意されているわけでもなく、
ただただ淡々と時間が過ぎていく――。見終わった後、私もそんな風に感じていましたが、
スグにでもまた見たくなる。映画に求める“良い”とは個々それぞれ違っているでしょうが、
私の場合のそれは会話が飛び交い、出演者が魅力的、そして鑑賞しているそのいっときだけでも他のことを
完全に忘れさせてくれる映画です。この映画はまさにそれらにピタリと当てはまる、素晴らしい作品でした。
いずれも主役級の役者ばかりが揃っていましたが、それぞれの主張や距離感、説明的なセリフや演出の
一切ないといった強弱が絶妙、成瀬監督作品の中でも、特にファンが多いというのも納得できます。
映画としての輝きというか、カリスマ性のような力がものすごく感じられます。そして着物も素晴らしい。