まだこの国のマスコミは骨の髄から腐ってはいないことを実感。
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水俣病患者が増え続けている。
この言葉を目にしたとき、その理由が分からなかった。
すでに、解決した公害問題だったのでは、すでに水銀物質を含んだ工場排水の垂れ流しは止まったのでは、と本書を読了するまでは思っていた。
しかしながら、水俣病患者ということで受ける周囲からの差別に耐え切れず、水俣病の症状を隠して生きてきた人々が、国と熊本県がこの公害事件の責任を認めた時を境に、名乗りを上げてきたという。
当然、水銀を垂れ流したチッソは被害者に補償をするのは当然と思う。国も熊本県も責任を認めたのならば、生活支援を行うのが当然、と思う。
しかし、そうは簡単に終わってはいない。
チッソは今、携帯電話の液晶を生産するなどして、高収益企業という。
かつて、このチッソは高度経済成長の名のもとに、日本国民の経済的上昇を支える企業でもあったが、反面、その陰では病気に苦しんで死んでいった人々も多い。
本書には水俣病解決に向けて尽力した現役の政治家、閣僚の名前も出てくる。反対に、マスコミ受けは良くても政治家として無力であったことをさらけ出した閣僚の実名も出ている。世間の常識が通用しない官僚の実名も出ている。官僚政治を打破すると口にした民主党が自民党と官僚が描いた妥協案に納得した様も描かれている。
この一冊は、水俣病という公害事件を描いているだけではなく、日本という国家のデザインを描く前に解決しなければならない問題を提起している。表には出てこないかもしれないが、いろいろと政治的にも圧力があったのではと思える。
長いものに巻かれろ、スポンサー受け狙いのマスコミ報道が多い中、久しぶりに社会派のジャーナリズムに接した。
日本航空は救済できても、水俣病患者は救済できない、この国が抱える不公平をまざまざと見せつけてくれました。
素朴な疑問の大切さ
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水俣病はまだ解決できていない。なぜなのか。この素朴な疑問に対する答えをこの本は豊富な証言を通して教えてくれる。
門外漢にとって、公式確認から50年以上もたっているにもかかわらず、水俣病の患者なのかそうでないのかが問題になるのかは理解しがたい。本書はその理由を国が水俣周辺の住民の健康調査を行っていない点に求めている。
過ちを素直に認め、現状を正しく認識することから問題の解決が始まるという教訓を忘れてはならない。それは官僚組織だけでなく、多くの民間企業にもあてはまる。そして中国やインドなど高度経済成長期を迎えている新興国の人たちにもこの本で書かれている内容が伝わってほしい。
水俣問題の入門書
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水俣病の歴史、政治的論点が整理されており、非常に読みやすい