生物地理学・系統地理学の良書
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生物の分布がどのように形成されたかを研究する分野は古くから存在していて、古くは種の分布パターンから、近年ではDNAを用いた研究(分子系統地理学)を中心に様々な研究が行われている。生物の分布の成り立ちを解説した本は様々な分類群で刊行されているが、本書は2003年の日本魚類学会でのシンポジウムをもとに、淡水にすむ魚類に焦点をあて様々な種で行われた研究を紹介したものである。
しかし、この本がほかと違っているのはDNAに基づいた研究がメインであるものの、分布パターンや化石に基づいた研究も紹介し包括的に分布の成り立ちを解明しようとしている点にある。さらにはDNAを用いた解析法も解説してあり、なにより過去を復元する上では非常に重要である地史についても専門家による解説がなされている。そのため、この本1冊で日本の淡水魚類相がどのように成り立ってきたかを十分に理解することができる。
DNAを用いた解析や地史は他の分類群でも共通であるため、本書は魚類に興味がある人だけではなく、日本の様々な生物の分布の成り立ちに興味がある人、特にこれから研究を始めようとする学生にとっても、非常に有用だろう。