ぐずぐずしている時間はない。
★★★★☆
NY在住の出版エージェントが、アメリカにおける電子書籍の現状をレポートしている渾身の一冊。電子書籍における変革の模様を、読者、出版社、Amazon、作家、エージェント、Apple、編集者、Googleというさまざまなプレーヤーの立場から描いており、変革の波の大きさを改めて痛感する。
特に印象的だったのが、このレポートが古いもの VS 新しいものという単純な図式で描かれていないことである。むしろ、古いものと新しいものが、ともに力を合わせながら、新しい場を形成していっているようにも思える。これは、アメリカという国がその生業から、変化を受け入れることに対する耐性の強さを持っているということなのか、業を煮やした著者が日本の出版業界へ警鐘を鳴らすために、そういう視点で描いたのか・・・
Amazon、Apple、Googleといったキープレーヤーが、同じように電子書籍というものに取り組みながら、少しづつ立ち位置が違うというのも興味深かった。デバイスに付加価値をつけることが目的の後発Appleはエージェンシーモデルを取り入れ、買場のプラットフォームに強みを持つAmazonは価格決定権を得るためにホールセラー・モデルを主張する。Googleは他のサービス同様、無料コンテンツに拘り、図書館的な立ち位置をもくろむ。おなじみの3社がこの業界でも場を賑わし、動向に目が離せないところである。
そしてこれは、遠く離れた異国の話でも、出版業界に限った話でもないのだ。自分の国のこと、自分の業界のこと、自分の会社のことと思いながら、何度も何度も再読した。議論をするも大いに結構、ただしそれは実行を前提とした議論であってほしい。著者の結びの一文が、胸に突き刺ささった。「ぐずぐずしている時間はない。」
アメリカの電子本とそこからみた日本
★★★☆☆
著者のアメリカでの経験をもとに日本の本の将来についても語っている. 電子書籍に関する本のなかには日本の出版社にひきずられたものも多いが,そこから距離をおいたこの本からしかえられないものもあるだろう.
米国での電子書籍のリアルな動向を知りたい方には最適
★★★★☆
米国で出版社勤務を経て、リテラリー・エージェントとして活躍されている著者ならではの本。米国の出版社、著者、エージェント、流通企業など関係会社、書店、読者などが電子書籍をどう捉えているのか、日本ではなかなか分かりづらいダイナミックな動きを日本語で読みたい方にはお薦めの本。電子書籍に関する日本語の本は数多く出版されてはいるが、ここまで米国の現場の動きをリアルに紹介した本はない。逆に日本での電子書籍を巡る事情は他の本に譲った方がよいだろう。あと半年すれば、また新たな動きが出てくる面もあるだろうから、今読むべき旬な一冊である。
アメリカの出版業界で何が起きているのかがわかる
★★★★☆
著者は日米の出版業界や書店業界についてくわしい。経歴を聴けばそれもうなずける。講談社、アメリカのランダムハウスで働き、今は日米を行き来し出版エージェントをやっている方だ。
したがって、最近の変化について詳しいことはもちろん、日本人の電子書籍への関心がどの程度まで来ているかも把握しているので、まことにこの時点で読むのにふさわしい内容となっている。
当然ではあるが、アメリカで電子書籍が普及していく過程で何が起きたかについて詳しい。
たとえば、アダルト系のコンテンツや理系男性向けのSFものが普及の一助なっている状況。最新型のキンドルではおなじ本を読んだ人がどこにアンダーラインを引いたかまでがわかる仕組みがあるらしい。だから、その
キンドルを使って宿題の小説を読もうとした学生が、版権問題が片付いてないことに気付いた会社から一方的に記憶領域に置いていたファイルを消去されたという事件が起きたらしい。その件では宿題をやっていた学生が裁判で勝ちいくらかの賠償金を手にしたようだ。
電子書籍元年といわれた今年も10月が見えてきた。これから年末にかけて新読書端末が売り出され新しい形の電子書籍も発売されるだろう。どの分野においても日本はアメリカを追うことが多いので、日本の出版界周辺の将来を知るために読む値打ちがある。
ひたすら読みやすい
★★★★☆
アメリカの電子書籍市場を俯瞰するにはいい本だった。
といっても様々な数字を出しそれらの分析をするという内容ではない。
著者自身が海外での出版事業に関わってきたからわかる、業界・業界人の動きことやアメリカの人々がどういうふうに電子書籍を読んでいるかなどを記してある。
デバイスやフォーマットの話はほとんどないが、電子書籍に関わる人々の動向を知るのには最適な1冊だと思われる。業界人だったり、自費出版をした人の例だったり、グーグルをはじめとしたネットから参入してくる人たちの動きを知ることは興味深い。
また、アメリカの書籍市場とその動向がわかり、日本とは違った読書習慣を知れて面白い。私はペーパーバックの本をアメリカの人々がかなりぞんざいに扱うことを知らなかったので、読みたい部分だけをちぎって持ち歩くという事実に驚いた。
この本に書いてある全てのことが日本で起こるとは考えにくいが、これからの電子書籍に夢を馳せたり、落胆したりしたい人にはオススメ。