苦労の末に
★★★★★
もっと技術的な話の本かと思ったのですが、
むしろすばるができるまでの著者の苦闘が描かれていて、
引き込まれたように夢中になって読みました。
自分も最初海外に日本の望遠鏡ができたと聞いてなんだか腑に落ちない気がしていて、
それはもちろん役人も同じなわけで、その役人たちの説得するときの著者の砂を噛むような思い、
自分は無駄なことをしているんじゃないかという不安。
しかもそれが20年もかかり、理解が得られない期間が10年もつづき、
それでもハワイに調査をしにいったりと、なんてタフな人だと、涙が出そうになりました。
ようやく理解が得られてからも給与問題などが保証されないかも知れないといわれたりと、
もうこの人凄いなと思いました。こんな経験を踏み越えて当時世界一の望遠鏡をつくられた
著者を見てるとかなり勇気づけられました。すばるのことはもちろん、
人間ってやればできるんだとも思える本でした。
筆者にとっては幸せだったのか・・・?
★★★★☆
ふと思ったんですが、科学者として、一研究者として、自分の研究に全身全霊を打ち込んでいくのと、こういう大きなプロジェクトに最初から最後までリーダーシップを発揮するのと、どちらが筆者にとって幸せなんでしょう?もし小平先生にお会いできるんでしたら一度伺ってみたいものです。
内容はやはりというか、前例のないことに幾度も壁にぶち当たり、それを周りの理解協力を得て何とか乗り越えていく。淡々と書かれてありますが、ものすごい苦労があったんだなぁとしみじみ思います。特に主鏡の運搬はホンの数行でしか書かれてませんが、私自身運送業に従事してますのでどれだけの苦労があったのか、なんとなくですが判るつもりです。
国家予算のつけ方も、これから見直して欲しいものですね。
プロジェクトの記録を超えた、多面的な内容の佳作
★★★★★
標高4000mを超えるハワイ島のマウナケア山頂に、日本が所有し運用する世界最高性能の天体望遠鏡を擁する「すばる天文台」が出来るまでの20年間の記録。プロジェクトの発案者であり主導者であった天文学者の著者によって、大プロジェクトが実現されるまでの様々なドラマが記録されている。
日記を元に書き起こされているので、個人史的に偏るところも見受けられる。しかし内容は多面的であり、プロジェクトマネージメント、技術の挑戦、お役所の制度との戦い、プロフェッショナル・科学者・国際人・家庭人の生き方や天文学とはどういう学問なのかの紹介など、読み手によって印象が変わる著作だ。プロジェクトX的な臭いが気になるものの読み物として面白く、天文学に興味がある人はもちろんどのような読者にも訴える作品だ。個人的には、国の制度や予算獲得と運用の硬直性を描いたところや巨大望遠鏡を作る過程をのぞき見ることが面白く、また、著者が考える国際化とは何かについて共感をした。
R&Dに10%つぎ込め!
★★★★★
大きなプロジェクトを実施するためには、事前に十分なR&D(研究開発)が欠かせません。
R&Dを十分行うことなく大きなプロジェクトに突入すると、失敗のリスクが大きくなります。
リスクを減らすためには、それなりのお金を使ってR&Dしなくてはなりません。
すばる望遠鏡は、400億円の国家予算を使った大プロジェクトでした。
小平さんによると「すばる望遠鏡のR&Dには、10年間で4億円しかかけていない。それしか予算がつかなかった」と言っていました。
欧米では、RandDに本予算の10%くらいかけるそうです。
そうすると、失敗のリスクがほとんどなくなる。
ところが、すばる望遠鏡のR&D費は本予算400億円の1%ぽっちだったということです。
とすると、日本はRandDに金を出さないので、バクチみたいになっちゃうのではないでしょうか。
すばる望遠鏡は、少ないR&D費で成功を収めたわけですから、日本の技術力はすごいものだとも言えます。
でも、RandD費が少ないため、リスク回避のために過剰設備になる、という面はないのでしょうか。
R&D費をケチったために、他の部分で無駄が発生しているようにも思えます。
日本では失敗した大プロジェクトも多いようにも思えます。
たとえば原子力船陸奥とか。
あからさまに失敗だったとは言わず、「一定の成果が出た」なんて評価のものは、実質的に失敗のように思います。
R&Dに10%程度の費用をかずに本格的な建造をしてしまったから、失敗したのではないか。
この本を読んで、そんなことを思ったりしました。
そんなことを思いましたが、実際はどうなんでしょうか。
尊敬される国になる
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技術的な話ばかりかと思いながら読み始めました。もちろん望遠鏡に関する話題も豊富ですが、ハワイに高価な望遠鏡を設置するための国内の法的な支援体制を整えるための苦労が大きかったのがよくわかりました。
例えば、すばる望遠鏡とその付帯施設は国有財産であり、それを外国の領土に設置すること自体に前例がなかったこと。あるいは天文台を管轄する文部省には予算を自由に使うことは許されず、すべて大蔵省に裁量権があること。その他、もろもろの苦労がこの本にはまとめられており、完成して最初の画像を発表した時の興奮が、読者にもよく伝わってきました。
そして昨今の行政改革が長期的視野を欠いており、また短期的な利益を求める風潮に対し、尊敬される国になるために必要な基礎研究が大切であることも理解できました。