金融こそが要
★★★★★
市場、特に金融市場こそ、強欲さによって人を不幸にするシステムだといわれることが多い。
本書はそれに真っ向から反対し、金融こそがすべての市場システムの、いや発展の要だと訴える。
金融市場は、能力はあるが貧しい人のところに金を回し、事業をさせられるようにするので、階級的な障壁を取り払って上に上がれるようにする唯一の策である。
さらに、そうした能力ある人を発掘することが、国全体の効率の向上につながるのはいうまでもない。
また、実態と金を切り離せることで、例えば余命間もない人に生命保険を担保に金を貸す、などという、双方のニーズにあうことも可能になる。
ただし情報や信用の問題により、市場や取引相手が信頼されずうまく機能しないこともある。
そうした事態を避け、きちんと市場が機能するように一定の規制と整備を行うのが政府の仕事である。
しかしこうした動きには、既得権者が反対するし、不況時には貧困層と既得権者がつながって反市場運動がおこることも多い。
そうした事態を避けるには、(事後的にではなく)事前にセーフティーネットを張るとともに、教育をきちんと施し、また外国からの競争から否応なく国内の規制を取り払うような方向に持っていくことが必要となるだろう。
筆者は別に政府をなくせと言っているわけではない。
市場を正常に動かすにはむしろ政府のような仕事、そして権威が必要となるのである。
放任はせず、かといって不要な規制は取り払う、そうした難しいバランスの中に市場はある。
なお、訳についてだが、いろいろ批判するレビューもあるが、個人的にはそれほど訳が悪いとは思わなかった。
少なくともきちんと読むならばそこまで読みづらくはないと思う。
既得権者たちへの痛烈な批判
★★★★☆
原題は、"Saving Capitalism from Capitalist"。自由主義的資本主義者気取りの、既得権でべたついたやかましい金持ちたちが、資本主義の最良の部分 - 資源を最適に分配する市場機能 - を損ねている、という話。
特にアメリカの鉄鋼業界の話が印象に残った。アジアの鉄鋼メーカーの輸入攻勢に困った鉄鋼業界の団体(いわゆる既得権者)は、活発なロビイングを行なった。これを受け、2002年に鐵鋼輸入に関する8%から20%の関税を課す法律をブッシュ大統領が裁可した。本書によれば、この措置は450億ドルの費用負担をアメリカ国民に負わせることになった。このお金で 9000人の鉄鋼業界の雇用が確保されたらしいが、大部分のお金はもちろん鉄鋼業界のお偉いさんの財布に入ったはずである。また、もし別のところに遣えば 7万4000人の雇用を創出できたとも言われる。
端的に言うと、本書の主張は、世の中声が大きくて、たまたま声が通るところにいる人が得するようになっている、ということである。James Brown は、Say It Loud とでかい声で歌ったが、残念ながら彼はあまり声の通るところにいなかった。ということで、昨今、いかに声を大きくして声を通るようにするか、というハウツー本でいっぱいだが、本書はそういう世相に対する非常に心地よい反論である。
新自由主義を誤解している人達へ捧ぐ・・・
★★★★★
最近何かと批判を浴びる新自由主義
しかし、多くの日本人やメディアは新自由主義のことを誤解している。
むしろ、規制産業の代表格であるマスコミ等はあえて誤解をし、
新自由主義を否定し、市場を阻害しようとしているかのようである。
新自由主義というのは、規制を全てなくして何でも市場に任せようということではない。
公正な競争や市場を守る為に、不自然な規制は緩和して、公正な市場を守る為には
ルールを作りましょうということだ。それが勝手に誤解されて言葉が一人歩きしている。
不自然な規制とは何か?それは既得権者の持つ特権である。
日本で言うのならば出版業界の再販制度であったり、自動車業界の車検制度である。
それらの制度がなくなって困るのは誰か?それは既得権を持つ業界の経営者および従業員である。
経営者vs労働者なんてものはほんと無意味な議論であることがこの本を読めばわかる。
新自由主義とは何たるかを理解するためには必読の本であると思う。
名著(翻訳は硬いが)
★★★★☆
競争的市場経済はいろいろな意味で優れた仕組みだが、これを盲信する論者も非難する論者も、市場メカニズムが政治的にはきわめて脆弱であることをあまり意識していない。市場経済の勝者は、その政治力で競争を抑圧し、既得権を守る側に回るインセンティブを持っている。また敗者は競争のメリットを否定し、政府の介入を求める傾向が強い。
このように、市場メカニズムは常に政治的な敵の攻撃にさらされており、これを意識的に守る人々がいなければ、発展はもとより存続さえ危うい。自由な金融市場を育て、守ることがとりわけ重要である。本書はこのような観点から、広範な議論と政策提言を展開した名著である。
追記: 最初にレビューを入力したときには、「残念なことに翻訳は(啓蒙書なのに)必要以上に硬く不自然で、明らかな誤訳も少なくない。なるべく原書を読まれることをお奨めする」と書いたが、少し厳し過ぎたかもしれない。読み返してみると、直訳調が気になることに変わりはないが、他の翻訳書と比べて特に見劣りするわけでもないと思う。星5個の原著からマイナス1点で、星4個とさせていただく。