親鸞伝承を再検討
★★★☆☆
本書は、これまで偽書とされてきた『親鸞聖人正明伝』(以下、『正明伝』とする)を、明証性を有した<史実としての親鸞>が書かれた書物として、読み解く事で親鸞の真実に迫ろうとした一書である。存覚作と伝える『正明伝』は、高田派の学僧である五天良空によって江戸中期に開版された書物である。しかし、近代以降の歴史学研究の場では、高田派の正統性を主張するために、存覚に仮託してつくられた偽書とされ、等閑視されてきた。著者は直観によって、『正明伝』こそ親鸞の史実と思想を描いたテキストと思い至り、倫理心理学的な解釈などにより、その史実性を熱く述べていく。
これまで<史実>を伝える史料ではないため研究対象とされてこなかった談義本系統のテキストが、近年改めて見直されている。それは<史実>を導き出すため、あるいは伝承されてきた親鸞を読み解くためなど、様々な立場から注目されている。本書は、『正明伝』に注目した先駆的な書物として評価できよう。但し、その方法論には多くの問題を孕んでいるように感じる。色々な課題を提起している書物として一読するには、大変面白い。