時代が必要とする卓越したイエス伝
★★★★★
大貫隆・佐藤研編集「イエス研究史」などを紐解くまでも無く、この主題に関する文献はすでに汗牛充棟の様を呈していることは周知のとおりですが、本書はその書籍の洪水の中に新たに投じられるに十分に値します。現代はまさに、本書を必要としています。
現代聖書学の成果をふんだんに援用しながらも、著者はその限界と危険性を十分に認識し、ハルナック、ブルトマン、ヴァイス、ユリヒャー、グレロー、J.P.マイヤーらの見解を俎上に載せつつ、カトリック教会の教父たち、聖人たちが信じてきた伝統的イエス像をきわめて説得的に再提示することに成功しています。とりわけ、神の現存としての「神の国」解釈や、ヨハネ福音書の史実性の擁護は大変重要であり、異論のある方も冷静に読んで見られることを強くお勧めします。
本書の内容はそれにとどまらず、ニーチェやマルクスに代表される現代の人間主義的思想に対するきわめて的確かつ根底的な批判も含み、表面上の読みやすさにもかかわらず、その豊かな内容を汲み尽くすことは容易ではありません。