画期的な美術書です オールカラーで分かりやすい説明が万人に愛されるでしょう
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美術品が作成された当時の色を推定してCGで再現した本です。堅苦しい美術書ではなく、彫刻や絵画などの国宝が本来はどのような発色をしていたかを突き詰め、デジタル復元の技術を駆使した作業の成果です。再現した写真をふんだんに掲載してありますから、誰もが興味を持って読み進められるムックに仕上がっていました。
筆者の小林泰三氏は、「狩野派の屏風・花下遊楽図屏風」の制作で数々の賞を受賞した人で、現在はWOWOWで「美術のゲノム」案内役として出演しており、本書でも美術探偵に扮して各章に登場していました。
20ページに復元した高松塚古墳壁画を掲載してあります。オール立体復元と称して、石壁内部の見事な壁画も彩色当時の色と図案が復元してありました。学術的な検証も施されており、これがオリジナルの壁画だったと理解しました。
46ページには東大寺大仏殿の四天王を復元していますが、なかなか迫力があり異国情緒が漂うものです。
「地獄草子」「平治物語絵巻」「日月山水図」を詳しく紹介し、見事に再現した後、狩野永徳「檜図屏風」を取り上げています。その作品を目の当たりにしたこともあり、このCGで永徳の息吹を再現してもらうことにより、本作の魅力がより増したようです。108ページ以降に掲載の復元図の迫力と発色は素晴らしいものでした。
永徳の弟、狩野長信作と言われている「花下遊楽図屏風」では、関東大震災で失われた部分があり、その白黒写真を元にオリジナルの色を再現しようとする考証過程が知的好奇心を満たします。137ページの図の美しいこと、拍手喝采です。
CGの技術、学芸員の知識の両方の才能が結実した内容だと思いました。