子供たちに向けた温かいまなざしで書かれた民俗学
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「愛国心」と書くと思想めいていると言われそれなら「郷土愛」が適当か?というような論争ばかりが頭の上をかすめていくような時代ですが、宮本常一さんのこの著書はまさに彼があとがきで「何よりも歩いて見ること」「歩いてみないと、その実感がともなってきません」と書いているように日本中を隈なく歩いて採集した、彼が愛してやまない日本の庶民の暮らしや文化・風習・伝統などを図説を交えて教えてくれる分かりやすい本です。「です・ます調の文体」で書かれていますからまさに炉辺でムラの長老から聞いているような感覚を味わえますよ。長い長い歴史の中でさまざまな辛酸が沢山あったであろう庶民の普通の人たちのこと。文献でも考古学でもわからない生きた生活の調べがあります。大人が読んでもちっとも飽きませんし大人なら多少の経験があるから尚更実感を伴って味わえると思います。
何よりも宮本さんの温かい思いが伝わってくる良書です!
「生活」科の教科書
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執筆当時は新進の民俗学者であった宮本が主に小学生を対象としてふるさとの生活史とくらしの成り立ち方を描いた読み物。子供向けということもありひらがなが多く、現代の大人には少し読みづらいところもあるが、書かれていることは正に「(当時の)生活のための教科書」といっていいのではないだろうか。
なぜ同じ島の中でも集落によって漁のやり方が異なるのか?なぜ祭りはいつも月の半ばに行うことになっているのか?身近な疑問点から出発してそれらの背後にある「理由」を子供にもわかりやすく解説し、民俗学という学問が「科学」の所産であることを印象付ける一冊。
昭和25年に子供たちにむけて語られた希望
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古きを見つめて未来を良きものとしよう、他郷を知って故郷を理解しよう、教育者としての宮本常一は小中学生に向けて平易で静かで希望に満ちた口調で語る。さまざまな土地の暮らしのたて方や姓の分布から読む人々の移動、年中行事のいろいろを語り聞かされた子供たちは「僕達の村ではどんなふうだろう」と自然に考え進めることができたのではないだろうか。まだ遅すぎないかもしれない、見つめるべきものが残っているうちに私達はふるさとの生活を顧みよう。「それは例えばよその土地ではこんなふうですよ、あなたの土地ではどうですか」そんな問いかけがたくさん並んでいて、どこから読んでも楽しく興味深い。