前近代と近代の架け橋「華族」―その実態を網羅的に紹介
★★★★★
本書は、経済史を専門とし
明治維新や華族制度に関する著作がある筆者が、
華族について紹介する著作です
都道府県別に、当地出身の華族の来歴や
主な業績、子孫の活動などを紹介し、
巻末には、明治〜昭和期の資料をもとに筆者が作成した
華族の資産とその推移を示す表が掲載されます。
千家近くにも及ぶ華族を紹介するという性質に加え
あくまでも説明に徹しているので、
文章そのものは単調な説明体になります。
しかし、戦後の国会議員・北条浩が早雲の子孫であるとか
古川ロッパが加藤弘之の孫である―など
紹介される情報はいずれも興味深く
行間からは、著者の華族制度に向ける情熱が色濃く伝わります。
さらに、華族について網羅的に紹介する著作であるがゆえに
(西郷隆盛の子孫は華族であるにもかかわらず)
江藤新平や川路利良の子孫は爵位を授かっていないなど
華族になれなかった人々や、なれなかった事情について興味もわきます。
前近代と近代を結ぶ華族について、膨大な情報を提供する本書。
通読はキツイかもしれませんが、
近代史に興味はある方はもちろん、戦国時代に興味がある方など、
歴史好きの方には、常に傍に置くことをおススメしたい著作です☆
決して「総覧」ではありませんが
★★★☆☆
『華族総覧』と題されていたので早速、購入致しました。
しかしながら、新書版で「総覧」は所詮無理な話で、結局は明治維新以降の名高い華族を列挙・解説した「世間にありがちな内容の作品」でしかありませんでした。
とりわけ残念なのは、肝心の「本来の華族たる京都の堂上家」が極く一部の著名な家門のみしか載っていないことです。
こういう書物は、分冊本にして、1.「堂上公卿篇」、2.「大名諸侯篇」、3.「勲功華族篇」といった体裁で「総覧」の名にふさわしい作品を編んで欲しいものです(1.には奈良華族も忘れずに)。
結局は、そのほうが歴史愛好家にも、華族に関心をもつ人々にも喜んで迎えられたに違い無いでしょうから。
その点が些か残念なので、三つ星に留め置きます。