規制から自由化へ
★★★☆☆
日本の林業衰退に関する本端数種類あるが、本書は一貫して国の日の丸親方的手法を批判する立場をとっているのが特徴だ。
前半は補助金行政の側面から、後半は建築法の立場から批判を展開している。著者の一貫した主張は規制から自由化へ、つまり国の画一的な規制を見直し、民間の創意工夫を応援する行政に切り替えよ、ということだ。
オーストリアなど諸外国との制度設計や風土の違いが述べられており、日本の森林の将来を考えるのに有用な本だ。
上流の森から下流の住まいを作り、水を供給する
★★★★☆
森林の崩壊 白井裕子 新潮社新書 2009
早稲田の理工出身で建築士である白井さんの著作。
上流にある森が下流の住宅を供給する。そして水源となり、ひとに憩いの場所を提供する。
十分な木材蓄積量がありながら外材で建てる日本の住宅。その原因は何なのか?
単なるコストの問題ではないことを氏は国内外での調査から指摘する。
国家予算のほんの一部が林業そのものに費やされているに過ぎない事、じつは林道、治山、砂防などの公共事業につぎ込まれている事。補助金行政の煩雑で無駄の多い仕組み。
そして現場でなく机上で作らせる施策や法律。
すべてがトップダウンで行われてきた林業あるいは環境行政の顛末がここにある。
いかに補助金で頼らないで、あるいは補助金をバネにして自立的な林業を成立させるかが林業存続のカギなのであろうと素人ながらに感じる。それには現場優先で物事が進まねばならない。後半部で描かれる日本建築の衰退も建築基準法というガンジガラメな法律により職能としての大工さんのやる気を失わせたのだろう。
個人的には林業が完全な循環型な産業とは思えないが(氏は植林して繰り返し木材として収穫出来ると書くが)森という存在が林業と環境という文脈において並列することには意義を唱えない。
内容的には非常に広範な情報が語られているが、一次情報元があいまいな箇所が多いのとデータの取り扱いを(アンケート等も)もっと図表にするなりすればより説得力を持たせる事が出来ただろうと思う。ご自身の得意分野であろう建築技術に関する項目はなかなか理解し難いというのが正直な感想である。
備忘録的メモ、
5機能3レベル3ゾーニング
山地災害防止機能、水源涵養機能、保健文化機能、生活環境保全機能、木材等生産機能
高い、中位、低い
水土保全林、森林と人との共生林、資源の循環利用林、それ以外に「保安林」
大人が読むには説得力に欠ける
★★☆☆☆
タイトルは森林の崩壊というより、林業の崩壊といった方が当てはまると思います。著者は書き進めるにしたがって日本の林業の状況にイライラがつのっていったのか、他の方も書いておられるように感情的な文章が多くなっていきます。気持ちは解らなくもないが、このような書物では感情論は抑えるべきですし、数字やグラフ等問題点を裏付ける資料も不可欠だと思います。特に日本の伝統的建築の優秀性について述べられている部分は、優秀性の根拠がきちんと提示されてなければ説得力がありません。著者はまだ若い方のように見受けられますので、今後に期待したいと思います。
書き直しをお願いしたい感情的なレポート
★★☆☆☆
オーストリアの林業行政の様子を知るにはよいですが、感情的・主観的な文章が苦になります。
アメリカやカナダの林業事情については結構知られているように思いますが、オーストリアのそれの一端を伺うことのできる本は希少と思われます。この点で、本書にある著者の見聞録にはそれなりの価値があるでしょう。
しかし、主観的で感情的、やたらと修辞の多い文章が残念です。日本の林業には問題が多いことは周知の事実です。日本の行政はこんなに遅れていて駄目だ、ついでに建築基準法も最悪だということを、繰り返し感情的に述べても、読者の思索の役には立たないと思われます。
また、調査地で会った匿名のだれかがこう言っていた、知人のだれかが涙ながらに語っていた、だからこうなんだと決めつけるような文章は、およそ研究者としてふさわしくない物言いではないでしょうか。読者は、著者の感情的な文章より、裏付けとなる客観的な資料を見たかったと思います。また、登場人物は実名で登場してもらえば、より説得力のあるレポートになったと思います。
私がこの本の編集者であったら、作者に全面的な書き直しをお願いします。著者の思い込みや決めつけで綴られた雑文のようなこの本は、森林問題に興味を持つ方にあまりお勧めできません。
読み終えたら子供に回せる 「家族で読める森林問題」
★★★★★
グラフ・図表を用いずに、どう平易に展開していくか。
そうした記述に徹した1冊です。
実は論理的な構成をしているのですが、そんなことも感じさせずに、上手に情緒的に読ませてくれます。
内容は高度です。が、そう感じさせない。
ルビから察するに、小学校高学年からでも読めるようにと配慮された「家族で読める森林問題」ではないでしょうか。誠実な語り口は、ブームに乗った「森林問題本」ではないことが伝わってきます。
これ1冊で全てが分かるわけではありません。入り口です。
林業が抱える多様な課題と日本の今までの林業政策を、川上(育林)から川下(消費・建築)の視点で、海外での実例(自身の研究より)を交えて述べています。そして、根底にある文化論も綾にして読み手に投げかけてきます。さっと読めてしまう新書なだけに、さりげない記述の真意はドキッとします。
研究職という立場上、新書に載せられなかったことも多いと思いますが、表現を変えて伝えたいことを伝えようとしていることが感じ取れます。良書です。