裏表紙に赤い糸でMの文字が刺繍されているだけの写真もないシンプルな装丁はかわしまようこさんの本の装丁などを手がける葉田いづみさんによるもの。この本を通して、少女的なるものを愛おしむことはあっても甘すぎず(あくまでひそやかにこっそりと)かといって所謂作家さんのようにストイックすぎることもないかの女独自のスタンスが改めて浮かび上がってきます。
そう、この絶妙な匙加減!「つつましやかに、美しく」丁寧に暮らすことを何よりも生活の基本として、その暮らしの枠組からはずれてしまうことはしないと決めているかのようなmitsouさんのひかえめな中にも見え隠れする芯の強さがこの本からふつふつと立ち上ってくると、わたしは自分の節操のない生活を顧みてため息を吐くと同時に朝のひんやりした空気に触れた時のようなぴんと背筋が伸びる心地がします。
そっけないくらいにシンプルでいて、でもどことなくユーモラスでとぼけたような雰囲気をもつかの女のイラストや小物や、ここに収められた文章たちはいつもわたしたちに―かの女のことばで言うと「にっこり」してしまうような親しみを感じさせてくれるのです。
印象的だったのはかの女の美に対する考え方。
かの女が美しいとするものは「用の美」。
「もの」は役割を与えられて使われることではじめてほんとうに美を放つのだということ。
当たり前のことなのに日常に溢れ返る「もの」を前にしているとつい忘れかけてしまうこと、そんな大切なことにふと気付かされます。
この本には、かの女の今好きな「もの」や幼い頃から彼女を形成してきたさまざまな「もの」が写真やイラストとともに愛情を以て語られます、それは書き言葉として書かれているというよりはむしろ今ここで温かいお茶でも飲みながら目の前で話掛けられているようなそんな親密な距離の近さなのです。そして、何よりも驚くのが、こんなにあれやこれについて語っているのにもかかわらず、かの女がこれまでに選んで来た「もの」がすべて一本の糸でつながっているように一貫しているということ。
かの女が15歳の時にお小遣いをはたいて買ったランプが大切に大切に使われて、十数年も経った今も未だ現役でほの暗い光を放っているという事実、その筋の通った一貫性はかの女自身をいちばんよく表していると思うし、その濁りのない選択眼にわたしはただ驚きをもって心動かされるのです。