確かに面白い!
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本書は日本中世研究の第一人者である平先生が、『日本中世の社会と仏教』(塙書房)において展開した論を、講演調で一般向けにわかりやすく書いたものである。
法然上人の思想的意義は仏教を民衆に解放したことではなく仏教を民衆に解放したのは旧仏教である。むしろ旧仏教によって謂れのない罪意識に囚われていた民衆をその呪縛から解放したのが法然上人の思想的意義である。そう述べるのが本書の最初の「専修念仏とその時代」の概略である。
法然上人や親鸞聖人の研究から出発し、法然上人や親鸞聖人が対決した旧仏教の研究をし、さらにその旧仏教の発展を支えた朝廷の宗教政策や仏教を取り巻く国家制度を研究し、現在では鎌倉幕府が展開した宗教政策の研究を行っている史学科の平先生ならではの、非常にスケールの大きな論である。
本書は他にも、中世初期の女性観を論じた「日本の女性と仏教」「親鸞と女犯偈」、悪人正機説を顕密体制論という枠組みに組み込んで新見解を述べた「親鸞の善人悪人観」、親鸞聖人が門弟に勧めた著作『唯信鈔』の著者聖覚上人が嘉禄の専修念仏弾圧の主導者であったという親事実を解明した「嘉禄の法難と聖覚・親鸞」等の興味深い論考がある。
平先生の説に賛同するにしても反対するにしても、日本中世の仏教に関心のある方は、この本を読んでおいた方がいいと思う。