「ありがとう」が結集した道具たち。
★★★★★
この一冊には、早く、安く、お手軽という合理性を追求したものはない。
職人が手間暇かけ、ゆえにそうそう安くはなく、使い捨てではない道具ばかりだ。
遊び心と工芸品と見まごうばかりの品品が並んでいる。
幕末、太平洋を渡った幕臣たちがの品品をアメリカ人は驚異の目で見ていた。日本に古くからある「矢立て」はペンにインク壺までがある携帯用筆記具としてその利便性に目を見張った。煙草入れは工芸品の蒔絵であり、キセルには気品すら漂っていると評した。そんな武士階級が使うものではないが、日常使いがこれには収められている。
思うに、この一冊に紹介されている品品だが、海外に向けて発信したら日本文化の普及になるのではと思った。世界の女性に支持される化粧筆は日本製だが、この本に出てくる「うるし筆」などは世界中の争奪戦が繰り広げるのではと思うほど。
短期で成果を出し、その成果を一人占めする評価主義が跋扈した結末が世界的な金融不況である。
紹介された道具の作り手は、短期間の成果を求めず、一人占めをも求めていない。使い手の「ありがとう」が評価であり、多くの人を不幸に陥れることもない。真の評価主義は「ありがとう」を生みだすこととこの本を読みながら感じた。
日々の暮らしのなかの "心地よさ"
★★★★☆
1章:「なに飲む?」―ほっとするお茶の時間, 2章:馴染んだ道具と―私の台所, 3章:「この椀で食べるとおいしくて、肥えるよ」―心地いい食卓, 4章:下駄のお稽古―やっぱりおしゃれも…, 5章:旅仕度、私流―いつも一緒に, 6章:木のもの好き―優しいぬくもり, 7章:喜ぶ顔が見たくって―贈る楽しみ, 7章の題目を見た瞬間, すぐ読みたくなった本。 著者の高森寛子さんの,日本の手作りモノに対する 深い思いがよく伝わってくる。高森さんの使い込んでいる道具たち51点 (急須、茶碗篭、汁椀、漆のスプーンとフォーク、土鍋, 白磁のコーヒーカップ, 花の里で漉く桜紙など)が,紹介されていて,高森さんの日本の手作りモノに対する 深い思いが よく伝わってくる。日々の暮らしのなかでの"心地よさ"は,とても大切であり,そんな "心地いい"と感じる時間を,あたえてくれるモノに,会える 一冊。