"Real World Out There" is "Not Even Wrong". 対称性(保存則)∋ 因果性
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原因が結果に先行するという因果律・・・
「光速より速く伝わるものがないので、光の進み方がわかれば、
特定の事象がどの事象の原因になったかを決めることができる(スモーリン著『迷走する物理学』)」
関係とは因果のつながりだけなのか?
(因果性ではなく)対称性こそが、関係する力を決定し、保存量を定義できる、根本原理なのだと著者は述べている。
実際の粒子や力は、「対称性が実現する体系の配置が不安定(スモーリン著『迷走する物理学』)」であること、つまり、
現実の関係(偶然)によって、対称性が自発的に破れた結果として、区別し得た訳である。
ところで、スーパーストリング理論には「根本的に新しい対称性原理」がなく、理論から出てくる予測がない。
(超対称理論(≠標準モデル)には、あまりにも「膨大な新粒子と未知の力」が登場し、
「理論が何かを予測する力を破壊してしまっている」)
因果律(interaction 局所的相互作用)のみならず、相関関係(correlation 非局所的相互作用) をも包摂する "対称性" を重視したい。
そうですか・・・ストリング理論は失敗したのですか・・・
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高校生だった90年代初頭。「超統一理論」の完成は間近で、その最有力候補が「超ひも理論」だという科学記事を読んで物理学史マニアだった僕はすっかりコーフンしたものですが…あれから数えても20年近く、そうですか…失敗したのですか。あれだけフィーバーしていたのに失敗するなんて…正直ショックです。
単に理論の予測が実験的に反証されたという意味での失敗なら科学という厳正な営みには必ずつきまとうことですが、ストリング理論の場合、ついに20年以上の長きに渡り検証可能な予測をひとつも出せずにいるという意味での失敗。つまりは「失敗した科学理論」なのでなく「科学として失敗した理論」なのだというわけですね…ますますショックです…
ストリング理論が物理学としては失敗したとしても、その探求を通じて数学と物理学に実に実りの多い交流が果たされたことをウォイトはストリング理論の功績として認めており、実際本書は、数学史の視点から見直したなかなかお目にかかれない実に興味深い量子力学史を教えてくれます。数学者ヘルマンワイルがシュレーディンガーやハイゼンベルクといった名前とほとんど同じくらい重要な意義をもった人物として描かれた物理学史の啓蒙書なんて他にないんじゃないかと。本書のセールスポイントは案外この「数学から見た量子力学史」にあるかもしれません。
素人が読める本ではない
★★★☆☆
率直に言ってこの本はかなり難解です。
私は数学と物理の知識はかなりあるつもりですが、それでも内容は2割ほどしか理解できませんでした。数式は殆ど無いものの、ほんの数ページ読むだけでもかなり骨が折れます。とにかく1行辺りの情報が濃くて着いてゆけないのです。おそらく日常的に、量子論等を有る程度職業として使っている人で無いと、勘が働かず、議論についていけないと思います。
おそらく書いてあることはかなり正しいのでしょう。少なくとも作者の数学と物理の素養がかなり深く、かつ正確であることを「感じとる」ことはできました。但し、内容の正確性を論じる力は私にはありません。
私がわかったのは、超弦理論の未来はかなり暗いのだろうという点だけです。
もう少し噛み砕いた本がほしいです。
健全な批判精神の発露
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スーパーストリング理論は、すべての素粒子の種類および性質を決定し、重力を含むすべての相互作用を記述し、時空がなぜ4次元なのかをも説明する理論であるとされている。要するに「すべてを説明する理論」というのが謳い文句である。数千人の研究者がこの理論を研究し、数万の論文を書いてきたし、今もなおストリング理論は学生たちを魅了し続けている。だが、ストリング理論は何かを説明したか?その目標が達成される見込みはあるか?
ピーター・ウォイトは1975年にハーバード大学に入学し、グラショウの指導を受け、プリンストンの大学院でグロス教授や、学生であったウィルチェクや、教授になりたてのウィッテンとともにいた。つまり素粒子の標準模型の成立期からストリング理論の勃興期にかけて研究の現場に立ち会った人物である。この本は、現代物理学の基礎原理が対称性にあり、対称性を記述するための数学を整えた人がワイルであることから話を起こし、ゲージ理論の成功、標準模型の確立に至る歴史を分かりやすく解説し、ストリング理論の歴史を詳細かつ正確に記述している。
原題は "Not Even Wrong", 間違ってすらいない、という意味である。この言葉は元々パウリが使った言葉らしい。科学理論は正しいか間違っているかテストできるものでなければならない、反証可能か否かということが科学と非科学を区別する基準である、と唱えたのはポパーである。スーパーストリング理論は実験で検証できるような予測を何もしない(予測をするための定義・計算規則が備わっていない、いつも言い訳ばかりしている)のであれば、これを科学と呼ぶのはいかがなものか。
この本はストリング理論の信奉者に突きつけられた挑戦状ないし公開質問状と見てよいだろう。読み応えは十分にある。翻訳に関して一つコメントを付けるとp.97の人名「オレイフェアタイフ」は「オラファティ」とした方が原音に近い。
数理物理学者によるストリング理論の批判書
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現在隆盛を極めているストリング理論の解説書になります。
まずはじめに、著者の専攻である数理物理学の立場から、対称性にウェイトを置いて、量子場の理論が解説されています。
後半部では、これまでに物理学者によって書かれてきた楽天的な見通しの啓蒙書とは違い、ストリング理論の現状に対して様々な角度からの批判がなされています。
たとえば、ストリング理論がここ30年間で何一つ予想を出せなかったため、科学と非科学の境界線を定めるときの目安になる、ポパーの反証可能性の議論にのせることすらできないこと、などについてです。
また、実験という強い制約を受けないこの分野で、学術誌の審査基準が曖昧になってきていることの象徴として、デッチあげの論文が専門誌に掲載されたボグダノフ事件(逆ソーカル事件?)なるものが取り上げられているのも、興味深いところです。
物理や数学や科学哲学に興味がある人は、楽しめる本だと思います。