はるかな夏……未来へ
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今、この日本でどれだけの人がこんな“夏の日”を知っているだろう。
滴るような緑、葉先に光るしずく、風の道をつくる稲田、空の碧さを映す小川、
濃い草木の香……。
私のなかでもそれは、逃げ水のように、はるか彼方の日のことだ。
カバーを開くと、今森さんのこんな言葉がある。
「里山をながめると、ほとんどの人は“なつかしい”といいます。でも、ぼくの目には、
それが“未来の風景”に見えてなりません。」
これは、今森さんの<ねがい>であるのだろうなあと思う。
不勉強な私は、「今森光彦」という名前を遠い日に、子供を通して知った。
「今森光彦さんの本を買って。」 虫が好きな子供だった。
その子は、今年、二十歳になった。
楽しみに開く今森さんの本ではあるが、いつも今森さんが発信している危機感を
感じざるを得ない。
「なつかしい」という言葉によりかかってしまいがちで、今森さんのいちばん伝えたい
ことを肝に銘じなければ……とは思うのだが、最終章のアマサギのように、
「今日最後の光を楽しんで」一日をしまいたいと、安易にも私は思ってしまう。
もう戻れない遠い夏の日が、未来に在ることを願って、自省するのである。