一人称記述ですが主人公が誰なのかもなかなか分からないですし、短編集なのか長編なのかも3章くらい読まないと分かりません。
主人公の北畠の恋人のマキの性格も破綻しているし(これはこれでリアルなのかもしれませんが、小説の登場人物としてはちょっと厳しい)、築地の明石さんが作者のこと(『アカシック ファイル』などの著者の)なのかまったく別人なのかも良く分かりませんでした。
中盤になって金印の歴史推理に入ってくれば『東洲斎写楽はもういない』のような論文としては面白さが全面に出てくるから読めるのですが、そこまで進むのがしんどいかもしれません。
3ページにも渡る引用・参考文献リストなど、資料を駆使した圧倒的な情報量はさすがではありますが…。もうちょっと小説家としての資質があれば傑作になるのに、と残念ではなりません。
ミステリーではないのでネタバレ気味に書いてしまいますが、ラストになってそれまで積み上げてきたものを一気に突き放すという贅沢さは、まさに知的遊戯そのものといえます。
相変わらず明石散人には圧倒的な知識をみせつけられ、大胆な説に引き込まれていく。
この本は紛れもない壮大な謎解きミステリでありながら、金印にまつわる詳細な歴史読本でもある。
いつもながら、多くの文献を憑拠に説を組み立てていくのだが、とにかくその文献が広くにわたること、また非常にレアなことに驚かされる。
そしてあくまで歴史を題材にしたフィクションでもあるので、どこまでが現在確認できることなのか、そのラインの判断が難しくもあり面白いところだ。
その為、読者は謎解きを見せられながらも、同時に謎かけされているようにも思う。
想像と興味をかきたてられる一冊だった。