京都鳴滝にある身余堂 保田與重郎邸の美しさを見事に表現した水野克比古
★★★★☆
京都を撮り続けてきた名写真家・水野克比古の技の冴えにより、京都の鳴滝にある保田與重郎のくらしぶりが見事に浮き彫りになっています。
嵯峨野の木々をそのままに残して造園したお庭での四季折々の風情は格別です。春の紅梅、生垣沿いに咲く枝垂桜、秋の紅葉、庭に積もった雪景色、もともと素晴らしい景観を保っているお宅ですが、名写真家の技術にかかると名勝史跡の趣が感じられ、より風格がますように思いました。
文芸評論家の保田與重郎(1910〜1981年)は、1958年に鳴滝に山荘を構え「身余堂」と命名したそうです。この「身余堂」は、河井寛次郎の高弟の上田恒次の制作設計によるもので、什器類も上田の手によるものだと書かれています。69ページには上田の手書きの設計図が掲載してありました。また41ページ以降に上田が作成した陶器が紹介してありましたが、素朴で味わいのあるフォルムが魅力です。古びた色合いが趣を感じさせ、河井寛次郎を彷彿とするような陶芸でした。
室内の写真もいいですね。特にシンプルなデザインの欄間、網戸を入れた夏座敷の涼しげな風情、無駄のない床の間の飾り、棟方志功の肉筆画や版画や書、それぞれの本来の味わいが美しく提示されています。
収録された文章は、藍毘尼青瓷茶會(保田與重郎)、建築家の目から見た身余堂(山中恵子)、撮影随感(水野克比古)、保田邸のこと(中谷孝雄)、鳴瀧秋色抄(保田典子)、わが新室の真木柱はも(谷崎昭男)でした。