古代史をめぐるシャープな仮説!
★★★★★
本書の中で畑井氏が示す仮説は極めて大胆なものである。確かに既出のレビューが言うように、方法論としては危なっかしさが一杯だと言ってもいいくらいだ。しかし、実際に応用してみると畑井仮説は、鋭く研ぎ上げられたナイフのように、極めてシャープな切れ味を見せる。実際、本書では触れられていない神社の由来について、畑井仮説を適用して考察したところ、長年の疑問が氷解した。畑井仮説によって物事の流れがきれいに説明できたのだ。著者自身の仮説論証の弱さはともかくとして、畑井仮説には間違いなく実効性がある。
著者は優れた洞察力の持ち主であって、おそらくゲシュタルト的に一気に事態を把握する知性の持ち主であると見る。帰納的な実証積み重ね型が好みの人からは「怪しげ」と捉えられるかもしれない。しかし、帰納積み重ね的な知性ならば「安心」なのかといえば、西欧の錬金術も神学も共に帰納積み重ね的知性の極みであることを思い出して頂きたい。
畑井仮説を応用して、「産銅」(銅鐸・銅剣)とこれを担った技術者集団、兵器として使った軍事集団に注目して、古代の日本を読み直す。すると、これまでとは違った古代日本の姿が見えてくる。なお、本書の「学術文庫版あとがき」には、印象的な言葉が綴られている。歴史学者には鋭い洞察力が必要だ、ということを教えてくれる一冊。星1つなんて、とんでもない!