「労働」は「喜び」か「苦しみ」か?
★★★★★
ある研究会で,水町先生のご講演を拝聴する機会に恵まれ,
そのクリアーなプレゼンに感動し,本書を購入した。
法律学者の先生の講義,講演を聴いて感動したのは,
アメリカ民訴法学者の重鎮Arthur Miller教授の民訴法講義以来である。
本当に素晴らしい本である。法律書,専門書であるが,文字通りpage turner
(読み出したらやめられない本,息もつけないほど面白い本)である。
まず,本書では,労働法が
(1)時間軸(歴史)
(2)空間軸(比較法)
(3)本質(「労働」とは何か?「労働法」とは何か?)
の3つの座標軸から,しかも平易な言葉で説かれている。
したがって,大変よみ易く,理解し易く,かつ深い。
(3)の関連では,例えば「『労働』は『喜び』か『苦しみ』か?」に代表される,
物事の本質を考えさせる,良質な「問い」が散りばめられている(「探求1〜35」)。
(1)(2)の関連では,興味深い様々な文献の引用,脚注の充実に驚く。
例えば「文明としてのイエ社会」や「自殺論」,「暴走する資本主義」等,古典からごく
最近の書籍まで,通常の法律書では余り引用されることのない社会学,経済学等の分野の本まで,
広くカバーされていることなど,脚注だけでもとてもentertainingである。
そして,労働法と日常生活とを結びつける「事例」集。
労働法がどのような場面で問題となるか,よく理解できる「楽しい」事例集となっている。
このような仕掛け,工夫によって,page turnerであるし,
「労働法の世界を通して世界や歴史を知る(ことができる)」という時間的,空間的広がりを持つ,
知的刺激に富む,「開かれた」又は無限に「広がる」本である。
実務家には,思考の整理,再度本質を考える等々の観点から,
また,プレゼンのお手本(「難しいことを易しく,面白く説く」)としても非常に有益な本であり,
また,「労働法教育」という観点からベストな本である。
企業の人に勧めるとしたらこれ!!
★★★★★
一応、労働法が得意なことになっている弁護士です。
仕事柄、新しい労働法の教科書が出ると目を通しますが、
本書は、説明も簡潔で、一般の理解(一般といっても
私が常日頃おつきあいする人事部の方々を中心に考えていますが)
としても十分なほどの説明量を維持しつつ、本文としては450ページ
程度で雇用関係法、労働組合法までを含め、労働市場法のごく簡単な
概略までを済ませる筆力はさすがというしかありません。
たとえば定番の菅野先生の労働法9版などはもう大部になって
ひととおりを勉強したいという方には向かなくなってきたように
思います(もちろん同書の価値はとても高いですが、そのような
使い道としては、ということです。)。
私としては、すでに労働法を仕事にしている弁護士ですし、
そういう基礎知識の前提で読んでいますから、
用いられている判例ベースの事例が読みやすさ理解のしやすさに
つながっているのかどうかは判断できません。
ただ、労働判例・法改正の変化が激しく、社会的にも
大きなうねり動きがあることを踏まえた2010年3月刊行の
本書がいまもっとも価値の高い読みやすい教科書の最有力候補である
ことは間違いないと思っています。
類書の中からどれを選ぶか迷っている方は、これを選んでみて
損はないと思います(値段も割とこの種の本としては安いです。)。
とにかく読みやすい
★★★★★
判例を素材にした事例から入っていく形式です。
例えば事例51
モグモバーガーの直営店で支店長をしている藤田さんは、会社の規則上「管理監督者」として扱われ、・・・
という誘導から、労働時間の適用除外の話に入っていく、というような形式です。
そのあと、一般論や要件が簡潔に書かれてあって、それに対応する判例は、すべて欄外に脚注付きで掲載されています。
なので、とりあえず、欄外を飛ばして読めば、労働法全体をざっと見渡すのに時間がかかりません。
その後、労働法判例百選を読んでから、欄外を含めて読めば、必要にして十分なことが書かれていることが、よくわかり
ます。
また、水町先生の要件の書き方は、判例の長めの規範も要領よくまとめてあるので、そのへんもお勧めです。
第2版とは、事例も異なり、掲載判例が新しくなっているので、第2版からの買い替えも十分価値がある、と思います。