概説書の新しいスタンダードか
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著者のプレーヴェは、長い間ドイツ近代史の通説となってきた
「社会の軍事化」というテーゼに対して、「軍隊の市民化」を唱えた人物として知られる。
歴史家である彼が注目するのは、従来兵営の中で閉鎖的な生活を営んできたと
考えられてきた兵士と市民の関係である。
本書は「内容紹介」にある様に2部構成の本文と、参考文献からなる。
第一部の「概観」がいわゆる通史であり、著者は1760年代から1890年代までを考察の範囲とする。
1848年や1870年の歴史的な事件はもちろんだが、「新しい軍事史」の旗手たる著者である。
国土防衛軍や国土民兵隊、生活条件と日常、軍事司法など、
軍事学の中の軍事史ではなかなか触れられない領域へ踏み込んでおり興味深い。
続く第二部では、歴史学の軍事史という領域について説明されている。
第二次大戦後しばらくはドイツでの軍事史を中心テーマとすることはタブーとなっていたこと、
近年積極的な取り組みが行われ「軍事史ブーム」とも言える現象が見られることに触れ、各々の研究テーマの蓄積に触れる。
5つの時期区分それぞれを扱った言わば横の研究と、「文化史」や「都市史」などを扱う縦の研究。
「女性史とジェンダーの歴史」などは日本に於ける帝国陸海軍研究でも蓄積が少ないのではないだろうか。
参考文献も単に著者が利用した文献ではなく、研究者など読者一般の後学のために記されたものである。
独語文献が殆どで邦訳された文献が少ないので、こればかりは研究者向きということだろう。
概説書の類は、たとえ紀元前から現代までという大きな通史に限らずとも、筆者の関心によったものが多い。
本書は、この点でも膨大な研究蓄積を反映し、かつよく小さく纏まっている。