中級者以上に最適
★★★★☆
新司法試験・論文の準備としてはゴールにしていいと思います。
法律の勉強において「理解する」ということと、「答案が書ける」ということは別物です。新司法試験は答案にしめされた理解だけで合否が決まります。したがって「答案が書ける」ようになることがゴールです。
しかし、理解していなければ絶対に良い答案はかけません。またどんなに書く能力に優れていても深い理解がなければ未知の問題には対応できません。したがって、「答案が書ける」ようになるため「理解する」勉強方法が合理的だと思います。
本書は「答案が書ける」よう「理解する」ための説明だけをしてしています。
旧試験を題材にしている点も適切です。民訴法は事例に則した理解は要求されていますが、事実認定能力は『他の科目に比べて』重要ではないからです。
量は多いです。いわゆる論点はすべて網羅しているといっていいです。それでいて論点ごとの関連も意識しています。
以上より、本書をマスターすることが新試験のゴールになると思うのです。
本書の欠点はところどころ舌足らずなところがあることです。ですので、初心者向きではありません。また本書一冊で本書を理解しきることも難しいです。あくまで、ゴールです。
また、択一向きではありません。答案を書くために理解すべきことを説明しているだけだからです。
著者の狙いと今後への期待
★★★★★
「講義民事訴訟」と「解析民事訴訟」に関する著者の意図やコンセプトは、それぞれの「まえがき」や「あとがき」に詳細に説かれている。これに加えて、東京大学出版会の小冊子「UP」2009年3月号には「振り返り」と題する小稿が寄せられている。特に、UPは両書の根底に流れる藤田イズムを理解するには必読であろう。小手先の受験勉強ではない本物指向のスキルを提供したいという熱い想い、また、1冊ですべてをまかなおうとする受験生発想では理解できない何かを訴えようとしていることがうかがえる。
「講義民事訴訟」は基本に徹して理解に導こうとするために「入門書」とみられがちであり、「解析民事訴訟」は司法試験問題を素材にしているために「受験対策本」のようにみられがちなのであるが、その根底に流れる法曹志望者への熱いメッセージと現在の法曹養成制度に対する強い危機意識に支えられたテキストとして斬新なものである。
本書は、民事訴訟法の「個別テーマの分析」と旧司法試験問題を素材にした「問題研究」とから構成されている。「テーマ分析」は、著者が法科大学院で訴訟実務演習問題に組み込んだ理論問題部分を取り出して整理したもののようである。個人的には、このような重要論点を組み込んだ実務問題としてどのようなものを作問しているのかが非常に気になる。是非ともそれをオープンな形で提案されてみてはいかがであろうか。「問題研究」は、司法試験問題を素材にしてはいるものの、受験対策本とか、単なる解説書の類ではない。もちろん、解説そのものに不足はない。しかし、実務家としてその設例といかに向き合うかという観点から、理論問題解決の手法を示しているところが重要である。読者は、本書を通じてこのような著者との対話を楽しんでいただきたい。
細部には荒削りなところや「?」という箇所は見られるものの、著者自ら「法科大学院を取り巻く状況からすると、万全を期するまで待つわけにはいかないと考え」、「読者との対話を必要とする未完のテキストである」ことを承知のうえであえて刊行したという(上記UP誌)。今後増刷や改訂等の際に記述の見直しが行われることにより、さらなる充実が期待される(2刷では、全体にわたり、さっそく表現の見直しがなされているのは驚くべき有言実行といえる。改訂であればともかく増刷ではそこまでしないのが普通ではなかろうか)。
これまでの法学教育の「常識」にとらわれない、著者の基本姿勢に讃辞を送りたい。
民事訴訟法・藤田メソッドの完結編
★★★★★
「講義民事訴訟法」に続く藤田教授の民事訴訟法演習テキストです。ロースクール生対象の教材。
この「解析民事訴訟法」では藤田先生らしい以下の工夫が施してあります。。
(1)32の基本テーマを選定し、お約束のパートに分ける〜この分け方が「講義・民事訴訟法」にリンクするものになっています。司法試験の口述問題などで過去の受験生が躓いたであろうテーマに絞られているのが実に心憎いです。
「民事訴訟の審理構造」では申し立て、裁判上の自白、証明責任と立証活動など、「民事訴訟手続の基本プロセス」では管轄と移送、当事者適格、債権者代位訴訟、訴えの利益、釈明権、争点整理と事実認定、自己の領域外からの証拠収集、既判力の弾力性、相殺の抗弁、一部請求など、「展開的な訴訟手続」では複数請求訴訟、共同訴訟、補助参加と訴訟告知、独立当事者訴訟から個別訴訟への還元、「上訴ほか」では控訴・訴訟と非訟などを取り上げています。
(2)以上の32の基本テーマに対して各章の冒頭でVIEWPOINTという図解を設け、イメージを想起できるように工夫されています。また基本概念の説明は繰り返しになっても、あえて説明されています。基礎的な事項ほど丁寧に繰り返しなさいという藤田先生の哲学でしょう。
(3)各章の「問題研究」として昭和24年から平成20年度までの旧司法試験民事訴訟法の論文式の問題を素材として提示(巻末に一覧があります)。「講義・民事訴訟法」で得られた基礎的な理解を応用できるか、読者に問うています。長文の民事法の論文の出題に悩む新司法試験世代には、なぜ今、旧司法試験の論文の過去問なのか、若干の異論が出ることも予想しながら、先生はそういう時だからこそ、あえて基礎をがっちり固めるにはこれが最高の教材である旨、強調されています。一行問題に関しては「講義・民事訴訟法」の基礎知識で解決がつくので、その該当頁を提示するのみですが、当時の受験生を悩ませた事例問題について、丁寧な解説が施されています。前提とされる判例もほぼ網羅されています。
藤田先生のこの本で資格試験の民事訴訟法は決着がつくと思います。学者先生の大部な体系書には受験上そぎおとさなければならない部分が多々あるのですが、この本は藤田先生の実務を射程に入れた見事な執刀でその必要はありません。私の学生時代に藤田先生が今回、書かれたような本があれば、民事訴訟の理解はもっと早かったと思います。つくづく今の学生諸兄がうらやましいです。信頼して余りある一冊です。