@スパイとは?A中野学校とは?B卒業生のその後
★★★★★
『中野学校』………毒ガス細菌兵器の習志野学校とともに当時の日本陸軍で秘匿されていた機関で、この中野学校を有名にしたのが、1970年代、ルバング島からの小野田少尉帰還のメディア報道だ。それまでに陸軍中野学校という有名な映画もあったのであるけれども…。
ちなみにこの映像作品を金正日は自国のスパイ養成のモデルにしたという話もある。
この本にはどのような人間が中野に引き抜きにあったか、またそのユニークな人物試験また天皇を批判することも否としない融通無碍な教育。
さらにはその中野学校の理念「謀略は誠なり」のモデルとなった明石元二郎少佐についてもたびたび触れられ非常に興味深い。
本書はまずスパイについての大まかな定義を全世界普遍的に定義し、次いで日本の謀略機関「中野学校」について詳しく論述する。そしてその卒業生がその後、どのようなスパイ活動に着手したかについて記述する、すなわち、3つの部分に分けることができる。
であるから、各人自分の目的に沿って読書に励むことが可能だ。自分としては、なんといっても中野学校の教官であった甲賀流忍術14世の藤田西湖のエピソードがおもしろい。今、生きていたら間違いなく世界の謀略機関に招聘されっぱなしだ。
驚くべき内容
★★★★★
嘗ての日本陸軍の工作員養成機関「中野学校」の出身者による数々の活動が記載されています。
日本陸軍は先の大戦突入に際し、ここまで準備を行ったのか!と驚く内容が数々紹介されています。
例えば、占領地で必要となる軍票を用意するため「陸海軍の経理局は、16年の2月から大蔵省と話し合いをすすめ、原板を用意していたから、マレーで使うマレー・ドル。フィリピンのペソ紙幣。ビルマのルピー。英領及び南洋で使うシリング。ニューギニアのレピー。蘭領ジャワのグルデン紙幣などを刷りだした。・・・日本の開戦意図と攻撃地がわかってしまうから、印刷するそばから箱に詰め、鋼鉄の帯をかけては電気溶接し・・・」(282p)といった具合です。
戦争中も様々な謀略により、まんまと連合軍を欺いた様子が活写されています。
ここで疑問に思ったのは、この著者は一体誰なのかということ。関係者へのインタビュー程度でこれ程の内容を書くのはちょっと不可能な気がします。
中野学校の関係者が「先の大戦には負けたが、自分たちはこれだけの仕事をしたのだ、ということを後の日本人に知っておいてもらいたい」として著した著作と考えた方が、合点が行く気がします。
謀略は誠なり。その熱き思い。
★★★★★
秘密の多い陸軍中野学校について、どのような学校であったのか、また、中野学校卒業生達がどのような工作を行ったのかを卒業生などからの聴取によって創り上げた本。
スパイというと、コソ泥のように権力者の屋敷に入り込み、パッシャと写真をとり、邪魔する者は撃ち殺す。なんてイメージもありますが、そんなイメージを吹き飛ばす、真のスパイ、工作員の姿。
日本にこれほどの諜報機関、学校があったのかというほど。
謀略は誠なり、国家・民族のための捨て石になる覚悟。
そのため、著者曰く、中野学校は自由な言論を許されており、当時では考えられないような天皇批判まで論じられたという。
それもそのはず、忍耐の必要な諜報活動や工作活動では、その心が折れることこそが一番任務達成から遠ざかることになるからです。
そのため、中野学校在学中にあらゆる角度から議論を深め、絶対の覚悟を見につけてから任務に行ったと言います。
ソ連スパイで米国の生活を気に入り、仲間のスパイを売る輩がでるストーリーがありますが、その点から見ても、中野学校の合理性がよくわかります。
また、任務達成のためには、「誠」が必要であることも。
読んでいて、スパイ技術以前に、生きる方法を学んだと思います。
外なる天業恢弘の範を明石大佐にとる
★★★★★
昭和13年に開所し終戦とともに閉鎖した陸軍中野学校。
この諜報謀略の特殊技術を教えた日本陸軍の『秘密戦士』の養成所について書かれた本です。
昭和40年代に週刊誌で連載された文章を元に編まれているので、親しみやすく読み易い文章でした。
学校での教育や、各人の行った工作、戦後の卒業生達の動向などが、それぞれの体験談を物語り風に記してあり、とても興味深いものになっています。
日本独特の教育をほどこした経緯について書かれた「謀略は『誠』なり」の章など読み応えのある本でした。
著者の熱意ある取材と努力には心より敬意を表す
★★★★★
著者は「日本の埋蔵金」などの著書のある畠山清行氏で、編集はノンフィクションでは定評のある保阪正康氏です。中野学校は、その昔、小生の親族の一人が在籍していただけあり、興味をもって何度も読ませて頂きました。当然ながら「学校」システムそのものの克明な「足跡」調査は難しく、詳細暴露については有る意味インパクトに欠ける印象も否定できません。が、それはそれとして著者の熱意ある取材と努力には心より敬意を表します。時折小生に言葉少なに話して頂いた当時の状況そのものが、この書の随所に書かれており、深く感銘を覚えました。小生は決して戦争肯定論者ではございません。しかしながら、信念を貫きながら生きながらえるという執念にも似た「合言葉」。公私共につまづいていた小生にとっては、なにか、心の底から力が湧いてきたような気がいたします。