実現性が如何なものか
★★★☆☆
提案自体にはよいものもあるし、確かに環境社会への変革は必要である。
しかし、この本は全体として「希望的観測」で書かれており、実現可能性という部分が不透明である。
例えば食料自給率は80%まで高めるべきと述べている(政府は目標60%)。実際にそれが実現できるのなら素晴らしいのだが・・・
農業問題に詳しい柴田明夫氏によれば実際に実現可能な自給率は、二毛作などを行っても50%程度では無いかという話である(財部誠一氏の著書「農業が日本を救う」より)。
また、ポーター仮説を用いて「規制が企業の競争力を向上させる」と説いているが、当のポーターは経済学者からの批判を受け、主張が根拠に乏しかったことから「向上させる可能性がある」と修正しているのは周知の事実である。ところが、この本では堂々と、「向上させる」と書いていて修正していない。
本書では外国人労働者を受け入れるべきとの主張もしているが、治安悪化や移民への社会保障などのコストを考えたら逆に高くつく可能性がある。しかし、そのことはまったく考慮しておらず、不勉強である。
再三出される「定額給付金より、同じ額を使って省エネ電球を配ったらどうか」という主張も、輸送費などを考えるとロスが大きく、そもそも電球のソケット、サイズが必ずしも適合するとは限らないなど無駄が大きい。何度もプッシュするほど優れたアイディアのようには感じられない。
一方で、日本政府の法制度等の不備による環境投資の後退や、ドイツの法制度による環境投資の成功例などの分析は、非常に的確であったように思う。
その点に関してはこの本の収穫であった。
日本は環境分野のリーダーになろうよ
★★★★★
とても後味のよい快作です。一気に読み通しました。
今回の「グリーンリカバリー」は中身が充実しているわりにさほど厚くなく、世界の歴史・現状・趨勢を読み取ったうえで、新しい日本の方向性、改革の必要性と政治のあり方などを、ベテランジャーナリストの視点から鋭く分析し、世界と現代日本の現状が濃縮されている一冊であると思います。
前半では最初から輸出依存型成長モデルの転換は緊急であることが問題提起されています。世界の現状、日本の現状(1章と2章)を述べ、日本の将来像を予測し、将来戦略を大胆に提案されています。
後半では他の国の事例と日本の事例を提示しながら、社会経済構造改革を進めていくうえでのグリーンリカバリー(日本経済再生)の戦略的な具体策が述べられています。
経済の成長と石油の消費量は比例する関係ですが、経済の成長と石油の消費をデカップリングさせることによって、新しい産業が生まれ、経済成長率を一定の水準に保つことができます。これを実現するためには、適正に設計された規制などが必要だと著者は事例を挙げながら、分かりやすく説明しています。この点は政治に対する提案ですが、経営者にとっても企業を成長させるよいヒントになると思います。
GDPに関して、本書に書かれている通り、たとえこれから人口減少などの原因によってGDPが縮小するとしても、日本には高い技術力があるので、人々の憧れの国になることができます。日本の成果を活かし今後も環境分野でリーダーシップを果たしてほしいという考えに、強く共感しました。
官僚、政治家をはじめ、日本を愛している人々にお薦めです。新しい日本、新しい世界を迎えるために、強い信念を持ち、長いスパンで考え、行動するべきだと思うようになりました。
日本の将来戦略として環境配慮の社会を目指せと説く丁寧な教科書
★★★★☆
人口が減少する日本社会にとっての将来戦略は環境に配慮した住環境の整備と環境関係の内需拡大を説く。その語り口はわかりやすいが著者が元新聞記者なのだからだろう、新聞の解説コラムか囲み特集記事を1冊分読むよう。教科書的でもう少し面白さがあればよいと思った。
グリーンリカバリーを国家戦略の柱として、次期政権への提言
★★★★★
神保町の三省堂でグリーン革命の横に平積みになっていたので購入。
グリーン革命が分厚く、日本のことについてあまり触れていないのに対し、グリーンリカバリーは、日本が今後、国家戦略として、環境を打ち出していく必要性を書いていて、読みやすく、非常に説得力があり、買った甲斐があった。
冒頭で面白かったのは、今回の不況の原因を、膨張する資本主義経済のせいではなく、そもそも、環境問題を無視してきた経済システムが限界を迎えた、という説明をしていて、このユニークな説明にとても納得した。そもそも金融バブルなんていうものは、歴史的に繰り返すものであり、それでは今回の世界同時不況は説明がつかない。しかし、筆者(彼は日本経済新聞社の元論説で、日経ビジネスの編集長も歴任している)は、今回の不況はその金融が起こすバブルのサイクルとは次元の違う、もっと根本的な経済システムの限界について言及している。
そして、他の程度の低い解説書や評論書のようなものと違い、この不況の後にやってくる日本の経済状況(2030年くらいの状況)について、具体的に数値を用い、解説し、そして、その打ち手についても、かなり具体例を用いて提言している。それは、日本の技術力や企業が独自に発展させてきたさまざまな環境ビジネスや環境に負荷を与えないビジネスプロセスの事例であり、そうしたことに対して、国が集中投資をしていけば、経済規模が縮小する日本が、1人あたりのGDPを伸ばすことで、豊かな国をつくることにつながるのではないか、という提言で、まさにそうだと思った。
何より、この本は、おそらく、近々やってくる政権交代を見据えて、政治家や官僚に対する提言を狙っていると思った。
いくら国民や民間企業が努力しても、国が、明確なビジョンとメリハリの利いた大胆な財源投資、組織改革をしなければ、アメリカや中国、欧州や他の地域が躍起になっているこの不況の後の主導権争いに、参加すらできない。
私も同じように、本書にかかれているような、政権交代、国家公務員制度の変更、政治任用制度などの必要性を感じていたが、日本が不況後の主導権争いで競争力を持つために、グリーンリカバリーを国家戦略に用いることで、そうしたことが必要だとすれば、非常に説得力があると思った。
本書は、上記に書いたように、他の本に書かれているように、環境問題だけにフォーカスしている本ではなく、これまで先進国の経済を支えてきた経済モデルの崩壊、そして、その後、どのような経済モデルを国が推進していくべきか、という、政治、経済、サイエンスをミックスした本になっている。
是非、次期政権を取る政党の党首に、この本を見習って頂き、日本を救って頂きたい。
豊かさを環境(Green)で実現する方策
★★★★★
挑戦的な調子で始まる前書きから、舞台裏が明らかにされるあとがきまで、一気に読み通しました。
ゼミナール日本経済入門はもとより、環境経済の著書環境経済入門(日経文庫)、環境再生と日本経済(岩波新書)、サステナビリティ経営 (講談社BIZ)など多数の著作がありますが、日本最強の環境経済ジャーナリストの最新作として、まさに今読むべきだと思います。精緻に読み込むような堅い表現の文章ではなく、新聞を読む一般社会人に理解できるよう、丁寧に書かれているので、関心の高い高校生、大学生、メディア関係者、企業経営者から政治家まで、多くの人に目を通してもらい、各自の問題認識を確認してもらいたい。
日本社会の構造を創造的に破壊して、新たな「豊かさ」へ向かうための活力が刺激されます。