名古屋の街をGIANTで駆ける高校生探偵
★★★★★
前作「甘栗と金貨とエルム」同様、舞台は名古屋。ローカルねたで恐縮ですが、主人公の甘栗がGIANT(自転車)で移動した地名をざっと挙げると、繁華街の栄、JR名古屋駅近くの笹島、名駅南にはじまり、太閤通、黄金陸橋、大須観音、鶴舞公園、名古屋工業大学、吹上、飯田街道、田辺通、瑞穂陸上競技場、天白川、野並、中川区の昭和橋、中川運河、新栄、覚王山、日泰寺。これらは実在するので、景色を思い描きながら読みました。
タイトルにもある「シロノワール」とは、名古屋でよく見かける喫茶店「コメダ珈琲店」の名物デザート。温めたデニッシュの上にソフトクリームがたっぷりトッピングされたもの。結構ボリュームがあるので、ひとりで食べるには勇気が要ります。(笑) 「コメダ珈琲店」は近畿、関東地方にも進出しているので、甘党の方は機会があれば一度お試しください。
最後のクライマックスで覚王山にたどり着いたときは驚きました。いえ、近所なので。日泰寺参道の「覚王山商店街」には古い食堂、喫茶店、寿司屋、駄菓子屋、紅茶専門店、花屋、履物屋、畳屋、医院などが並ぶ中に、ギャラリー、お洒落な小物やアクセサリーを扱う店がまじって、アジア的な独特の雰囲気を醸し出しているのです。毎月21日の縁日には参道を人が埋め、春と夏には「覚王山祭り」が開催されます。
物語にも登場した日泰寺参道入口のスターバックス。そこにスタバができたときは古い街並みとはあまりに異質で違和感があったのですが何年か経ち、参道にお洒落なケーキ屋さん「シェ・シバタ」がオープンして、新旧や「宗派」を超えて受け入れていくのが覚王山なのだと思うようになりました。
徳永の恩師は一体どこへ消えたのか。探し出すことはできるのか。ちょっと大人びた高校生探偵の活躍をお楽しみください!
半熟のまま、ハードにボイルド
★★★★☆
半熟のまま、ハードにボイルド。
あらすじ
夏休みが終わり、高校に復学した高校生探偵甘栗晃。
そこで彼を待っていたのは、戦車と恐れられた元不良の徳永だった。
自分の目前で消えてしまった恩師を探してほしいと言うのだが・・・
感想
主人公の甘栗の一人称が特徴的で『私』
高校生で『私』はないだろと突っ込みをいれたくなりますが
この語り口が作中の雰囲気作りにかっているのは間違いなし。
ハードボイルド定番の消えた女性を探す話。
探すうちに大きな事件に巻き込まれてしまうのもまた定番。
すごい謎やトリックはありませが、
さりげなくこちらの視線をずらしてくるところは油断ならない。
ギミックの代わりにページをめくらせてくれるのが
名古屋のご当地話(秘密のケンミンshowみたいだ)や
主人公と元不良との友情に似た微妙に共鳴する関係。
ページはすらすらと進んでいきます。
話はとんとん進んでいきますが
最後に主人公が語る推理は苦みが効いて、ある意味ぞっとする。
この苦みがハードボイルド。
意識と無意識のはざまの悪意が上手く描かれています。
読んでからの一言
今作の裏テーマは少年チャンピオン。
3年ぶりの続編です。
★★★★☆
もう続編とかは書かれないんだろうな、と思っていたので、
続編が刊行!しかも知った時は、発売日がすぐだという事で
とても楽しみにしておりました。
太田先生の作品は、困った事に読み易すぎて、この位の
厚さの本だと、数時間で読み終わってしまいます。
今回も、読み始めて2時間ほどで半分まで読んでしまった
ので、勿体無くて強制的に中断し、何日か後に改めて続きを
読んで堪能する事にしました。
内容は探偵甘栗君再び!
前作は夏休みのお話でしたが、今回は新学期のお話。
より少年らしい日常に囲まれる甘栗君ですが、そこには
やはり事件が!
太田先生の書かれる少年は、心に痛みを抱えていますが、
甘栗君は中でも一番飄々とした印象を受ける少年です。
この作品でも、父親の死についての今の心境の吐露が
ありますが、それがとても自然で、非常にすんなりと
納得出来るのです。
色々作品を読みますが、設定として暗い過去などをつけたがる
物語の場合、作者の実感が伴わない設定が、読者に違和感を
与えてしまいがちです。
そんな作品が多い中、彼の行動、言動、そして心情に違和感を
感じない、つまりは作品中に没頭出来る作品は、そうそうない
のではないのでしょうか?
是非手にとって読んでみて下さい。
なのになんで☆4つかと言いますと、今作では『登場して欲しい!』
と思っていた、前作のキャラが出て来ないのでした。
前作からの登場人物は何人か出て来るのですが、私にとって
重要なキャラが出てないのは非常に悲しい!
その子が探偵助手みたいに登場してくれるものだとばかり思って
いたので、それで☆マイナス1させて頂きました。
作品には何の落ち度もありません…。
最後に前作、今作共に、名古屋の美味しそうな食べ物が出て来る
のですが、『東京モンでは食べられないよ!』と歯ぎしり…。
名古屋に行く事があったら、絶対食べたいものが増えました!