まとまってはいるが
★★★☆☆
まだ比較的新しい学問領域だと言った方がいい「社会学」を巡る項目別の概説書。4人の若手研究者がそれぞれの得意分野について1項目2頁ずつを分担執筆したらしく、多少のムラは窺えるものの、まとめ方は総じてうまく、復習の気分で楽しく読み終えることができた。狭義の社会学にとどまらず、人類学や経済学の範疇に及ぶテーマについても筆を伸ばし、学者の紹介などのメモもきちんと記述されている。十分に真面目な本といえる。
そう評したうえで、☆三つにした理由を挙げれば、まずこの脱力感を伴うほどの陳腐な書名に対する「自省」がないこと。つまり、出版する際の「狙い」(読者層の想定など)が奈辺にあったかが分からない。また、欧州さらに米国へと広がっていった社会学の発展と随走しているはずの「日本の学究群」が喜多野清一、有賀喜左衛門以外、全く姿を現さないこと。これでは「社会学はもはや輸入学問ではない」という一部で標榜されている「弁明」を裏切るものとなってしまう。そして、上に「多少のムラ」と評したことにつながるが、仏のレギュラシオン理論、独のルーマンおよびハーバーマスの理論の紹介が(消化不良のためか)大変に分かりにくいことである。
新装版「命題コレクション 社会学」
★★★★★
社会学という学問を学ぼうというときに大事なのは、まさにこの本の帯で宮台真司氏が描かれているようにコンテクストの中での理論の理解だと思います。
社会学の理論離れが実際に学ぶ人の中でも進んでいる現在、このように簡潔な形で様々な命題とともに社会学の理論が紹介されているこの本は良書だと思いました。
同じような形で書かれた本にやはり入門書の古典である「命題コレクション 社会学」がありますが、あちらは活字が古いので読みづらいことと、ここまで簡潔に書かれていないため初学者にはいささか難しいところがありました。
この本は値段的にも気軽に手にでき、さらにあえて深く突っ込まないことで読みやすいと思います。
社会学は多くの人が思い浮かべるような統計や調査だけの学問ではありません。そしてこの本で示されているように様々な分野にわたるいろんな研究を一つの「コンテクスト」で理解していく、そういった学問であると個人的には考えているので、社会学の「思考法」の第一歩を踏み出すには最適の書であると思います。
ある程度勉強した人でも不得意な分野などの俯瞰に役立つでしょう。ただ、それこそ統計や社会調査についてはまったく抜け落ちていますのでそこは別に勉強をすべきだとおもいます。
この本にクロニクル社会学のような社会学史に厚い入門書を読めば、きっと社会学という学問の面白さがいろんなひとにわかってもらえるのではないかな、という意味で☆5つつけました。
知の世界の地図が得られる
★★★★★
これから社会学を学びたいと思う人はもちろん、知の世界に飛び込みたいという人すべてにとってうってつけの本。
とにかく扱うテーマが広い。そしてコンパクトな説明がツボを突いている。
一読するだけで、現代思想や社会学の伝統、発展、そして最先端で何が話されているか、大体の勘所をつかむことができるようになる。
この本は入り口を提供しているに過ぎない。
しかし、その入り口の網羅ぶり、入り口を通して見える世界像の充実は素晴らしい。
やみくもに勉強するよりも、これから勉強することの全体像をつかむことの方が難しいし、大切である。
広大で深遠でエキサイティングな知の世界に乗り出す出発点として、まずこの本から始めることを強く勧める。
社会がわからなくなる本
★★★★★
本書は、私たちが生きる社会がどのような問題を抱えているかを、
様々な角度から、しかも簡潔に示してくれる。
そういう意味では、「本当にわかる」。
では、この本を読めば、社会がわかるか。
全くわからない。
むしろ、わからないことが多すぎて、とてつもなく難しくて、
頭を抱えてしまう。
しかし、本書の前文も書かれているが、
社会とはおそらくそういうものなのだろう。
本書は、ただ教えられたままに社会を理解した気になり、
もしくは一般的な社会常識に得てして適応してしまっている
私たちに、社会とはそんなものではないということを示して
くれる。
社会とはわからないものであることが「本当にわかる」
そして、我々に「教わる」のではなく「学ぶ」契機を
数々の切り口を示すことで与えてくれる。
これから学びたいと思っている人、一通り勉強したことを
整理したい人におすすめの本だと思う。
幅広い領域を網羅する入門書
★★★★☆
『本当にわかる社会学』
本書は社会学の「入門書の入門書」である。
社会学とは何たるものかを、基礎概念から紹介している。ひとつのテーマを見開き2ページという限られた紙面に凝縮しているにも関わらず、古典から現代社会学の最新キーワードに至るまで、他の入門書では取り扱わないテーマも幅広く網羅する。
もちろん扱うテーマを無駄に増やしているというわけではない。
歴史的前後関係や、他の概念との関係性がつかめるような物語性こそが、本書の特徴なのだ。
たとえば第一章の「個人と集団」においては、方法論的個人主義と方法論的集団主義という社会学の基礎概念から始まり、テンニースやリースマンまでテーマに沿いながら読者を誘う。
一般的な社会学入門書は、プロ倫や自殺論などにページの大半を割き、登場する社会学者や理論の数も限定されやすい退屈なものになりがちである。
しかし本書は「一口メモ」と明快な図解においてその難点をカバーし、前提となる最低限の知識を提供してくれる。
ジョック・ヤングやU・ベック、バウマン、ホックシールド、ジョージ・リッツァら現代社会学を牽引する学者から、政治学者のシャンタル・ムフ、憲法学者のローレンス・レッシングまで取り扱う幅広さは、他の入門書にはまずあり得ないだろう。加えてガルトゥングやネグリ、サイードまで、いわゆる「社会学」という範疇を超えた思想にも比重が置かれている。
また「入門書の入門書」にもかかわらず、その鋭敏な視座が際立つという点も本書の強みのひとつだ。
個別のテーマの導入には読者が概念化しやすいような具体例を例示し、末尾には問題提起と批判的な視点の提供を忘れない。読者迎合の文体ではなく、すっきりと洗練された語り口も非常に好感がもてる。
行間から滲み出る「現代の感性」は多方面に開かれた新鮮さがあり、読み手を飽きさせることがない。
閉鎖された学問の辛気臭さを払拭してくれる良書である。
本書は、社会学を学ぶということがどのようなことなのか?それにより私たちが<社会>とどのように関わってゆくべきか?そんな本質的なものまで再考させてくれる。
社会学を基礎から学びたい人にも、すでに社会学を学んでいる人にも、双方が活用できる有効なテキストである。