鳥類の驚異と神秘の世界
★★★★★
この本はいかなる読者も対象としうる、飛翔、生理、種、渡り、群生、繁殖など21章からなる非常に広範な鳥類の科学全般を扱う基礎の教科書である。各章の内容はほぼ完全に独立して書かれており、どこから読んでも問題なく理解できる。日本語は直訳ではなくこなれていて読みやすい。ただし漢字で表現されている専門の関連語は読みにくいものもある(例えば「熱気泡帆翔」「初列風切羽」など)。ハチドリは1日に体重の3.3倍量もの蜜を吸うなど、興味をそそる数多くのトピックがふんだんに盛り込まれており、その多くはBOX(囲い込み記事)としてもまとめられている。これらを拾い読みするだけでも楽しい。
図はすべて白黒で、いささか古い原著論文の図がそのまま用いられているところなどは理解しにくいことがある。そのかわりこの本に関連したグラフィックはカラーで詳細図がインターネット閲覧できるように整備されている。
一般読者を意識しすぎて単純に記述しようとしたあまり、ところどころ科学的に不正確な記述がある。
日本語版での問題点として、専門語や種名の英名(または学名)が付属していないので、興味を持った種についてさらに原著文献や英語の図鑑で調べる際に不便である。例えばミヤマシトド=White-crowned Sparrowなど別途探す必要がある。
英語原著が100ドル以上する当書をこの価格で日本語にした新樹社の英断と山階鳥類研究所の努力に感謝したい。