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拒絶された原爆展

価格: ¥1
カテゴリ: 単行本
ブランド: みすず書房
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20世紀の歴史に残る名著 ★★★★★
 国立航空宇宙博物館の元館長、マーティン・ハーウィットによる本書は、20世紀に頂点を迎え、そして21世紀に入ってもその勢いを弱めようとしない偏狭なナショナリズム、または「国民の物語」が、具体的な形で論争を引き起こした事例を生々しく物語っている。

 エノラ・ゲイ展示論争と時を同じくして、日本では歴史教科書論争が勃発した。従来の歴史教科書は「自虐的」であり、これではそれを使って歴史を学ぶ子供たちが自分の国に誇りを持つことはできないとして、教科書記述の大幅な改訂を要求する運動が一部の保守派知識人によって展開された。

 この二つの論争に共通する点は、自国民から多数の死傷者を出した過去の戦争の記憶をめぐって、その記憶を「国民の物語」、すなわちアメリカ人としてのま!たは日本人としての集団記憶として語ることへの執着が、そう簡単には消滅しないという厳然たる事実を提示したことである。

 この二つの論争における大きな違いは、日本においては、「日本人としての誇り」を強調したグループの主張が歴史の歪曲、歴史修正主義として猛烈な反発を招いたのに対し、アメリカのエノラ・ゲイ展示論争においては、記念的性格とは異なる、学術的で分析的な展示を企画し、原爆投下の道義性や被害の実態などにも言及しようとした博物館スタッフに対し、退役軍人らが「政治的正しさ(political correctness)」という看板によって事実を捻じ曲げた修正主義という批判を浴びせたことである。日米間では、明らかに多数派の言説が正反対の特徴を示しているのである。つまり、アメリカでは愛国的言説が素朴に受け容れられる素地が大きいということである。そのことは2001年9月11日の同時多発テロ以後のアメリカにおける言説の保守化やハリウッド映画に頻繁に現れる、愛国心の肯定的な描写からも明らかである。

 国際交流の美名の下に全く異なる歴史観を持つ二つの国が協力を試みる時、各々の「国民の物語」が我々の前に立ちはだかって、陰に陽に論争の火種を持ち込んで来ることに、我々は常に敏感でいなくてはならないだろう。「国民の誇り」に執着する自慰的な言説が非生産的であることは言を俟たないとしても〡?それを克服することが言うほど易しいものではないことを、本書ははっきりと示している。20世紀の歴史に残る名著であると思う。