ムード音楽?いろいろな意味で入門者向きの演奏
★★★☆☆
アメリカのオケのなかでも特に音量の大きなことで知られるフィラデルフィア管弦楽団の音量を最大でも70%程度に抑制して、力みのない演奏を聴かせます。オケの演奏技量は素晴らしいですし、録音も優秀。フィラデルフィア管弦楽団の音響世界を楽しむには打ってつけのCDです。オーケストラ音楽の入門者やショスタコーヴィチを初めて聴くという人にも良いでしょう。この演奏には、「勝利の歓喜」とか「勝利を讃える」とか「ロシア革命の悲劇」もしくは「強制された歓喜」などのような文学的な解釈は込められていないようです。そういう意味で、入門者向けです。
でも、ある程度、オーケストラ音楽を聞き慣れている、ショスタコーヴィチの音楽について知識をもっていたり、自分なりの考えをもっている人が聴くには適さないと思います。
先に「力みのない演奏」と書きましたが、それはよい言葉で言えばの話です。もっと率直に言えば、48分強の演奏時間のうち、ほとんどの時間は、かなり緊張感の緩んだ演奏に、少なくとも私には聞こえます。文学的な解釈を差し挟まずに純音楽的に演奏しようとするとしても、それなりの緊張感は必要です。「気楽に聴ける」と言えば聞こえはいいですが、ある程度耳のできているリスナーにはこの弛緩した音響世界はちょっと辛いのではないでしょうか。私は、繰り返し聴きたいとは思いません。疲れたときに、ストレス発散のために聴くにしては、アメリカ・オケのビッグパワーを楽しむには抑制されすぎ。どんな目的にしても、「帯に短し、たすきに長し」という演奏です。
明朗明快なショスタコ
★★★★☆
どちらの曲も方向性は同じ。「ショスタコーヴィチの精神性」などというものはあまり感じられないかもしれませんが、奇を衒わずにストレートかつスマートにこの曲を描き出している、純音楽的な演奏です。
解釈の鋭さや深みはあまり感じられませんが、前任のオーマンディから引き継がれたムーティ時代のフィラデルフィア管弦楽団の美点がいかんなく発揮されており、聴いていてとても心地よく感じられます。特に、ブラス・セクションの明朗でふくよかな響きは他のオーケストラではなかなか聴けないでしょう。
どちらの曲の演奏もショスタコーヴィチにしてはちょっと明るく健康的すぎるかな、と思うところもありますが、フィラデルフィア管弦楽団の魅力をたっぷり味わえるという点ではお薦めできます。