マイルスが70年にロックの殿堂フィルモア・イーストに出演した時のライヴは『マイルス・デイビス・アット・フィルモア』として出ている。それは70年6月録音で、本作は3月録音だから、前者の未編集盤とかではなく、まったく別の日に収録された完全未発表ライヴ。3月録音ということは、むしろ『ブラック・ビューティ』(4月録音)に近い時期の演奏ということになる。既発のフィルモア・イースト実況盤や『ブラック・ビューティ』のサックスはスティーヴ・グロスマンだったが、ここにはウエイン・ショーターが加わっている。チックやディジョネットなど、ほかのメンバーは『ブラック・ビューティ』と同じ顔ぶれだ。
スティーヴ・ミラー・バンドの前座としてフィルモアに出演したマイルスは、いったいどんな心境でステージにのぞんだのだろう。ロック・ファンを前に、さあどうだ!といわんばかりに挑発的なスタンスを誇示するマイルス。メンバーも一丸となって突進する。その爆発的な演奏がスリリングだ。『ビッチェズ・ブリュー』からの数曲を含む選曲も興味深い。(市川正二)