精神分析の悪しき見本
★★☆☆☆
精神病に対する精神分析的アプローチについて書かれた“アンソロジー”。
編者である松木はあとがきにおいて次のように述べる。
『統合失調症や非定型精神病という重篤で困難な病に、精神分析的心理療法というアプローチが何をなしうるのかとの問いへの答え、そしてその確実な成果を、著者たちのことばで表現できたのではないかと思います』
私の読後感では、患者たちに何をなしうるのか、という成果が描かれているというよりも、患者たちをモルモットにして精神分析的知見を披瀝することに貢献しているだけの本、と言いたくなるところがあった。
そうも言いたくなってしまうのは、中川の論文「筋肉の暴力的な使用による取り入れ器官の排泄器官化」が、あまりにもひどいアプローチだとしか思えなかったから。症例患者の言動のいちいちをビオンを初めとした精神分析的専門用語で切り刻んでいくだけで、これのどこが患者のためになっているのか、非常に腹立たしく感じながら読んだ。
もう一人の編者でもある東中園は自らの論文に以下のように書く。
『・・・私が痛感してきたのは、熱意に隠れている「優位」という闇である。・・・病者の抵抗とか陰性転移とか私が考えている間に、この闇は巣くっている。その実態は「私のほうが知っている」「私の方がわかっている」という、病者とのつながりを見失って支配しようとするものであり、私がふれそこなっているという事実に他ならない。』
中川が、かの論文において示しているのは、この「優位」という闇に他ならないのではないか。