米ソ両大国の都合で「民族内部の緒条件や感情とはまったく関係なしに」分断された朝鮮民族が、北では「社会主義君主制」(ゴルバチョフの言葉)の凍土に飢え、南では血塗られた権力交代を経験しながらも自由と民主主義を手に入れる。この違いはいかにして作られたのか。本書は「二つのコリア」の成り立ちをあますところなく書ききった「朝鮮現代史」である。
著者のオーバードーファーがジャーナリストとして初めて朝鮮半島にかかわったのは1972年、北の金日成政権と南の朴正煕政権が分断後初めて公式に接触し、板門店で南北赤十字会談が始まった年である。ワシントン・ポストの北東アジア特派員として南北対話の口開けを取材した著者は、その後も一貫して朝鮮ウォッチングを続けてきた。
30年に及ぶ取材活動で行ったインタビューは450回に及ぶ。インタビュー相手は朴正煕、全斗煥、盧泰愚、カーターら時の最高権力者はじめ、アメリカ、ロシア、南北両朝鮮、中国、日本の政治家、政府要人、外交官など朝鮮問題の枢要にかかわった人物たちである。
「うずたかく積まれた自分の日記をひもときながら」著者が朝鮮に関する本を書こうと思ったのは1988年だったという。その4年前、金日成はモスクワでチェルネンコ共産党書記長らソ連指導者と会談し、アメリカに接近する中国が「社会主義を維持できなくなる」ことに危惧を表明した。しかし、社会主義を維持できなくなったのはソ連のほうだった。著者は中ソ対立を巧みに利用する金日成と崩壊寸前のソ連の関係を、ジャーナリスティックな筆致で解析してみせる。
中国とロシアの韓国接近に反発した金日成の外交戦略、政権が交代するたびに変わるアメリカの朝鮮政策と韓国の対米不信。朝鮮半島は大国の政治に翻弄されてきた。南がフランスの核燃料再処理技術の導入を図り、北が核拡散防止条約から脱退して核開発をめざしたのは、大国の政治と無関係ではない、と著者はみる。
「現代史」とは、このように書いてほしいと思う本である。それだけに、訳文にぎこちない箇所があるのは気になる。多少の粗さは目をつむるとしても、ジスカールデスタンを「首相」とするのは、いかにもまずい。また「植民地の知事」は「総督」とするほうが歴史書らしいのではないか。(伊藤延司)
依然として最良の半島史
★★★★★
昨今の北朝鮮核開発問題を考えるにあたって、7〜8年ぶりに再読してみた。
1993〜4年の第一次北朝鮮核開発危機と昨今の情勢は、北朝鮮による瀬戸際外交及びそれを巡る周辺諸国の対応という共通性が通奏低音として流れているのはつとに指摘されるところであるが、それのみに目を奪われるわけにはいかないであろう。
すなわち、@現在のステークは、北朝鮮によるIAEA査察の受け入れではなく、既に保有した核兵器の廃棄である、A当時とは違って中国が様々な意味でプレーヤーとして存在感を増している、B日本は安全保障上の意識は高まったが、拉致問題という足枷をはめられている、といった点が15年前との相違点と考えられる。
いずれにせよ、半島情勢が今後10年ほどは日本にとって最大の安全保障上の驚異であることはほぼ間違いないと思われる。戦後の半島史を丁寧活バランス良くまとめた本書の意義はいまだ失われてない。
朝鮮半島問題を知るのに最適な書籍
★★★★★
しばらく絶版状態が続いていたが、2007年に二刷が出た。2002年出版という事で最近の情勢を反映していないと考える人もいると思うが、現在の情勢に繋がり、今の事も良く分かるようになる一冊となっている。
問題を国際政治に絞り必要な部分だけを上手くまとめている。文中や巻末には登場人物の説明が挿入されていて、前提知識がなくとも読める。記述は臨場感あふれ、時代時代の米国の意思決定機関にいるような錯覚さえ覚えた。500ページ強の書籍であるが、あっという間に読み終えた。もちろん物足りなさも覚えるかもしれない。それは主に北朝鮮側の資料がない事に起因するであろう。また、日本については、ほとんど触れられていない。
2007年現在の日本及び米国の論調では、米国の対北政策には不満であるという。しかしながら、うんざりする枕言葉に付き合うことになろうが、コーヒーショップで対話しようが、担当者同士が真剣に問題に向き合い解決の糸口を探すときのみ、情勢が好転するのが本書では良く分かる。それは米国において朝鮮半島の専門家が輩出されてきた事に無関係ではない(著者も過去、専門家がほとんどいなかったため好機を逸した事について言及している)。
最後に、「商品の説明」に「訳文にぎこちない箇所があるのは気になる。」とあるが問題ないレベルである事を付け加えておく。
オーバードーファーの温かい眼差し
★★★★★
朝鮮戦争以降五十年の韓半島を広範な証言と取材によって裏付けた大著。南北に対する変な感情や奇異なものでも見るように北朝鮮からの少ない情報に接している私たちに、アメリカのジャーナリストらしい表現で正当な現代史に関する知識を提供してくれている、貴重な教科書と言っていい。南の朴時代から全斗煥、盧泰愚を経て金泳三、金大中時代へ復興と民主化が確実に自覚的に前進していったことと並行して、北では金日成の個人崇拝、軍事独裁国家がより強固に民族主義的に異常な熱気を帯びて冷戦後の世界の躍動に押し潰されていく姿が縦横に休みなく展開される。これだけ内容の広範で濃厚な書物は他の現代史関連のものでもあまりないだろう。
今後の半島情勢を考える時、一方で遅ればせながら半島の統一(半島の人々にとっては祖国の統一)を演出する責務を意識させられながらも、特に北で起こった取り返しの付かない惨状の数々については改めて途方に暮れるしかないだろう。そう言って悪ければ、少なくとも北の「国家」に対するアメリカが持つ軍事オプションは依願してでも覚悟せねば、抑圧され続けてきた人たちは救われないのではないか?本書を読み切るには覚悟が必要だと私は思う。
これを書いた後に絶版になったようなので、再版ないし文庫化を希望する。
徹底した取材の成果
★★★★★
1970年代から1990年代後半にかけての朝鮮半島を中心とした国際関係について書いてある。特に政策決定までのプロセスが詳述されている。著者がワシントン=ポストの元記者で、徹底した取材に基づく内容。取材対象は外交官や政治家で、南北朝鮮とアメリカが中心だ。他にロシアや日本なども含む。
各国の歴代首脳の生の声が記されているのはとても貴重だ。リーダーたちの意外な人柄など、他にはない情報を得ることができる。外交がリーダーたちの「人格」によって行われることがよくわかる。
徹底した取材の成果
★★★★★
1970年代から1990年代後半にかけての朝鮮半島を中心とした国際関係について書いてある。特に政策決定までのプロセスが詳述されている。著者がワシントン=ポストの元記者で、徹底した取材に基づく内容。取材対象は外交官や政治家で、南北朝鮮とアメリカが中心だ。他にロシアや日本なども含む。
各国の歴代首脳の生の声が記されているのはとても貴重だ。リーダーたちの意外な人柄など、他にはない情報を得ることができる。外交がリーダーたちの「人格」によって行われることがよくわかる。