少年から大人へ
★★★★☆
元ヘアカット100のニック・ヘイワード四枚目のアルバム。(1992年作)
ソロ第一弾となった1983年の1st「風のミラクル」は、元々はヘアカット100用に書いていた曲も多くあり、ラテンやファンクを咀嚼した爽快さが前面に出ており、ポスト・ポール・マッカートニーとまで言われた早熟な才能が、いかんなく発揮されていた傑作アルバムだった。
そんなニックも、2枚目、3枚目は結構苦しみ、悪くはないのだが、それまであった天性のポップ感覚というのが減退しており、地味な印象を持ってしまう。3枚目をリリースしたのが、1988年であるから、それから4年の歳月と比較的長い期間をを経て、自然体のポップ感覚を取り戻したのが、今作である。
ここには、ヘアカットや1stアルバムにあったような若々しい躍動感はない。そのかわりに、ミドルテンポで落ち着いた極上のギターポップがずらりと並び、ニックが過去のスタイルから脱却し、大人っぽい情感を出せるようになったことが伝わってくる。全体に特別凝ったアレンジがあるわけではないのだが、1曲1曲が本当に丁寧に作られ、ニックの歌声もいつになく力が抜けており風通しがいい。
次作の「タングルド」からは、よりロックな路線にさらに変化していくので、ポップ・シンガーとしての到達点は、今のところこのアルバムがベストだと思う。さらにクリエィションから1998年にリリースした「アップル・ベット」もよりハードな音であった。その2枚も、なかなかの力作ではあったが、以降現在までアルバム出ていない。となると、そろそろ本来のナチュラル・ポップ路線に立ち返り、より成熟した姿を拝見したいところだ。
それまでは、秋にぴったりのこの落ち着いたアルバムを聴いておこう。