入門書、研究書として
★★★★☆
本書は、これから国際ビジネスを学ぼうとしている入門者だけでなく、修士課程レベルの学生にも読んでもらいたい本である。なぜならば、数多くの類書があるなかで、本書はまさにスタンダードな理論をバランスよく、しかも余すところなく紹介しているからである。
今流行りの怪しげなビジネス書とは異なり、本書をもとに仮説構築、そしてデータを用いた仮設検証まで展開することができる(それは、特に本シリーズの第2巻の初めの章と第5章の海外研究者による寄稿で具体的になされている。仮にスタンダードな理論が現実の要求に答えられないときは、既存理論のどの点が問題なのかを指摘しなければならない。ただ感覚的に間違っているというのでは、研究者として失格である。いずれにしても、スタンダードな理論や論点を学ぶ必要がある)。
感覚的あるいはレディメードな答えを期待するビジネスマンにとっては物足りないかもしれないが、理論と実証研究から得られた示唆は、さまざまな意思決定に(しかも矛盾なく)応用することができ、大変有用である。こうした著者・編者の偏見に基づかない、公正なスタンダードなテキストは貴重である。
ブラーブ(blurb)は結構だが・・・
★★☆☆☆
「多国籍企業の研究成果を踏まえた体系的入門書」という宣伝文句(ブラーブ)は結構だが、本書を部分的に読んだだけでも、マネジメント一般の実践経験がない研究者が文献上学んだだけのマネジメント論を陳列した著作であることがわかる。本書が採り上げるケースも著者独自のものではなく、参照した文献の翻訳か他人の論文からの借用である。理論的な解釈にも問題がある。一例として、「第11章 異文化マネジメント戦略」には、「異文化シナジーのベクトル・アプローチ」が紹介されているが、本書のベクトルに関する解説(p.174)を読むと、筆者はベクトル概念を数学的にはきちっと理解していないようだ。要は、巻末に掲載された参考文献の曖昧な要約と翻訳的紹介にすぎないというのが本書の総合評価である。