小泉政権、安部政権で改革に携わった財務官僚の実録
★★★★☆
著者の高橋洋一氏は、1980年に大蔵省に入省し、理財局やアメリカ留学等を経て
内閣府参事官、内閣参事官として小泉政権、安部政権で様々な政策に携わった官僚です。
その氏が入省してから2008年に退職するまで、手がけた政策・考え方とともに綴ったのが本書です。
序章・終章を含めると9章構成、282ページで所要は3時間程度で
具体的には郵政民営化の内幕、埋蔵金の内容、公務員制度改革の経緯などが書かれています。
筆者は政策に対するスタンスを「小さな政府軍」と「大きな政府軍」の2つに分け、
自らは「小さな政府軍」に属するとして、その立場から意見を述べています。
このため、見解に偏りがある可能性はありますが、
筆者の現状分析能力や政策立案能力、官僚組織の硬直性などは読み取れました。
政治や政策、組織に興味がある方におすすめします。
職人としての官僚の姿
★★★★★
さらば財務省 高橋洋一 講談社 2008
高橋氏(1955− 内閣参事官)の小泉・竹中改革時の舞台裏、いや舞台そのものを綴っている。読み終えての感想は、職人としての官僚、利他的、ノブレスオブリージュといったテクストだろうか。
埋蔵金問題は、現在民主党政権で仕分けの対象となっている独立法人や公益法人の問題点としてすでに指摘している。
日本の赤字問題は、財務省の増税ありきのための背徳的な目くらましであり、実はバランスシートを作れば、メディアで騒ぐ800兆円などという額にはなりえない。
経済成長率があがれば、財政再建は出来ないという理論が存在する。
優秀な個人としての官僚、非効率で既得権益優先の組織としての官庁。
日本の国益のために存在するであろう国家公務員や地方公務員、その質と力量が問われていることは間違いない。そして、政治家という舵取り役がいかに優秀な職人的官僚とタッグを組んで前に進むかという命題。
いつの世も人間関係という海の中で嫉妬や利害といった魑魅魍魎とした魔界が存在することを本書は垣間見せてくれる。おそらくは、ほんの一部分に過ぎないが。
高橋さんが書く小泉・竹中改革は善であるとの大前提であるが、官僚として職務をまっとうするという文脈から言えば当たり前の行動なのかもしれない。
著者のようなタイプの役人が増えれば
★★★★☆
小泉・竹中の改革から阿部政権まで支えた、純粋無垢で数学オタクの変り種元官僚による暴露本。自分の業績を武勇伝風に仕立てでつたえるのも子供みたいでかわいげがある。平気で国民のために改革をすすめたから、霞ヶ関からは大バッシングだったらしいが、こういうタイプが役人に多くなればいいと思う。頭が超イイのになんだか子供っぽいところがあるといういみでは虫オタクの養老孟司氏と似たものを感じる。
小泉・竹中の下で郵政民営化は、批判派からは外資に金を流してしまう水路をつくってしまったといわれるし、いいことづくしではない改革だったかもしれないが、著者とともに過程を追うと、大きな抵抗にあいながらも、やると決めたことに一心不乱で突き進み実現させたのはやっぱすごいと思わざるをえない(小さい政府それ自体は悪くはないし。ちなみに小泉がでなくても郵政民営化は必然的な流れだったとも著者。郵政が集めた郵貯の金は大蔵省が「預託」として吸い上げていた。著者の数学的分析によれば、郵貯をきりはなさないと大蔵省が組織としてつぶれるリスクが大きかった。この意見が採用され、大蔵はその権限を放棄した結果、郵政は郵貯をたなぼたで自主運用できるようになった。だが自主運用のぬか喜びがふっとぶほど茨の道である、民営化が不可避と著者は見ていた。理由は未経験による郵政側の運用能力の低さと、運用リスクをとる場合の経営責任発生。官営だと責任があいまいだし、民営化はさけられなかったという。レビュアは意見いえる立場でないから紹介だけで)。
著者の言葉は、いまさら守るものなど何もないという感じの姿勢で、財務省をはじめとした省庁への苦言を平気で述べていて、主張は明快だ。こういう欲のすくない純粋君が霞ヶ関に増えるとどれだけ国もかわるだろうという気はする(はじめはそういう気持ちで入ってくる新人官僚も時を経て保身君にスポイルされていくとも本書では伝えているんだけど)。
国民のために
★★★★★
国民のために官僚の壁に挑んだ
著者の日々が綴られています。
官僚という組織の恐ろしさが
実感できます。
彼らは、組織の拡張と維持に
固執するようです。
税収は売上のようであり、国民のため
という視点が抜けている。
著者が行った改革が正しかったのは、
未来に答えが出るのだろうが、
国民のために働いてくれたことを
感謝したいです。
特殊法人からの補填(税金からの高い利子)で回っていた郵貯、簡保
★★★★★
予想通りのコメント
「中央省庁のキャリアは、民間人を見下す。民間からの出向者には一線を画してつき合い、
「俺たちと知り合いになれてよかっただろう」という驕った態度を画さない。
とりわけ東大法学部至上主義の大蔵省のキャリアは、学歴で人を判断し、東大卒以外は人と思っていないところがある」
記憶したいコメント
「霞が関の、組織としてあまりにお粗末な実態を、国民にあまねく知っていただきたいとの思いから筆を執ったのだ―」
「官僚が主役であった時代はとうに終っている。平成の官僚は決して有能な集団とはいえないし、国を動かすだけの力は持っていない」
「大蔵省(財務省)はいうまでもなく予算の総本山で、どの部局でも数字を相手に仕事をしている。
なのに、東大法学部出身という法学士が牛耳っているのだから、そもそも無理がある」
「東大法学部卒の官僚は、計数には弱い。知識や理論のほとんどは知り合いの学者から仕入れたものだ。要は聞きかじりに過ぎない。
耳学問では、A、B、Cの3人の学者が同じような意見をいっていたとして、どれが根本の理論かわからない。
知ってはいても、本当に理解はしていないので、経験も知識もある上司から根拠を突っ込まれると、
最後には「あの学者がそういっていたので」と答えるしかなくなる」
「財務省では、予算を握る主計局が権限を持っているのですが、ここはとりわけ東大法学部出身者が多い。
しかし、驚くくらい会計に対しては、無知な人ばかりなのです。
私は会計が得意だったのですが、何度教えても理解してくれない。というよりも、覚えようとしない。
さすがに途中で腹が立って、「これは商業高校の簿記3級レベルの話をしているんです!」といってしまったこともありました。
このような感じですから、当たり前ですが、バランスシートも読めない主計官僚が多い。
このような人たちが日本の財務を担当しているのですから、恐ろしい話です(『霞が関の逆襲』)」
「1990年代、金利が完全自由化された・・・金利自由化以後はより金利リスクが膨らんだ。
・・・自主運用に切り替われば、郵政は民営化せざるを得なくなる」
「私も是非はどうであれ、郵政民営化は避けられぬと考えていた。そうでないと、郵貯はいずれ破綻の運命にあった。
財投改革によって郵貯は自主運用になり、運用利回りは劇的に低下していくはずだ。
実は、その基本的な構造は簡保も同様であった。それに郵便も電子メールでじり貧」
金融部門(郵貯、簡保)の民営化は必然的な流れだったんですね。問題は、非金融部門(郵便)です。
電子メールの時代、郵便事業が比較劣位なことは確かですが、難しい問題です。
中身のある、非常に読み応えがあります。…
★★★★★
中身のある、非常に読み応えがあります。内容は少し古いですが、たぶん考え方、役所の体質はそれほど変わっていないと思われます。