アン・タイラーはいつもありふれた日常生活を丹念に描いていくのですが、ズン!と心臓に突き刺さるような瞬間を切り取るのがとてもうまい作家です。
そして持ち前のユーモアで、「人生っていろいろあるけど、やっぱり素晴らしい」的なところにもっていってくれます。
こちらの作品も、夫婦とは、家族とは、とアン・タイラーらしい題材です。
戦中から現代まで、一組のカップルが出会って家庭をつくり老いてゆくまでの時代が描かれています。
一章ごとに数年の時間が経ってゆくのですが、それぞれ別の家族の視点から描かれているのもおもしろい。
ひとつの出来事が別の角度から語られると、全く異なる様相を呈し、家族の歴史に深みを加えてゆきます。
アメリカの移りゆく時代背景が、それぞれの家族の生き方・考え方にも反映されている点も興味深いものでした。
とは言っても、決して大袈裟な大河ドラマばりの展開ではなく、登場人物は好感が持て、感情移入もしやすい人たちばかり。
読んでいて思わず吹き出してしまったり、号泣してしまったり・・・決して人前では読めません。
どんどん先を読み進めたくなるのに、読み終えるのがもったいなく感じられる一冊。
様々なことを考えさせてくれる一冊でした。
本書の主人公の夫妻はマイケルとポーリーン。二人はパールハーバーの日に出会います。
マイケルの母親がやっている食料品店に、額を怪我したポーリーンが、女友達に支えられて、絆創膏を貰いにやってきます。その傷を消毒するマイケルは、コロリとポーリーンに一目ぼれ。彼女もまたマイケルが好きになります。
世間の興奮した戦闘の雰囲気に乗せられて、マイケルは志願。ポーリーンは、ボーイフレンドが戦地に行ってしまった、かわいそうな女の子の仲間入りができました。
やがて戦闘訓練で負傷したマイケルが除隊になり、二人は結婚。
ところが二人の性格の不一致が浮きぼりになってきます。
でもそのグチや喧嘩は、夫婦なら当たり前。でも、しみじみ実感したり、笑ったりしているうちはいいのですが、だんだんそら恐ろしくなってきます。
著者は二人の言い分をそれぞれ巧みに描写し、この夫婦の60年の軌跡を描いていきますが、読者をどちらの見方にもつけます。ポーリーンには、後半たたみかける不幸が襲います。
平凡なはずの夫婦の物語は、最後の展開までわかりません。