本書は即興演奏の第一人者である著者がその独特の観点から、即興演奏に対する優秀で思慮深い検査と説明を展開するものです。
著者ベイリーはS・レーシーやアール・ブラウン、ジョン・ソルンなど多くのアーティストとの対話を通して、その根源に迫ってゆきます。
即興演奏に挑戦することに興味のある読者には表面的なハウツー本とは違った意味で有用ですし、リスナーとしてもその関心を深める上で有意義な読書となるでしょう。

　即興といえば、ジャズしか思いつかなかったが、音楽全体で即興の占
める位置がいかに大きいかがはっきりと理解できた。
　楽譜あるいは作曲（形式知）が力を持ちすぎていることに対して、演
奏（暗黙知）の重要性を強調したものではないかと受け取った。

「イディオムを解体する」この言葉にひかれました。音楽を言葉で語る時、美しいだとか愛だとか情動の現れだとか、副詞的な表現で音楽を神秘で犯すべからざるものにしていることが多いように思います。
そうではなくて、この本では音楽に、音に何ができるだろうかということに真摯に謙虚に向かいあった事実のみが書かれている、と思います。

我々の肉体に音楽を戻す、というより、むしろここで生まれ来る音楽を体験できる、そういったあり方として即興演奏があるのだということでしょうか。
エリックドルフィーの名言を思い出します。