短い歌の中に見事なドラマを再現
★★★★★
長年、宝塚歌劇団花組TOPを努めてきて、ミュージカル「マルグリット」ではタイトルロールを演じ、各地で絶賛を浴びている春野寿美礼さんの初のシングルCDです。
柴草玲の作詞・作曲による「前山にて」には深く感動しました。全く聴いたことのなかった曲ですが、こんなに深い情感が漂う曲と巡り会った幸せを感じています。
今まで数多くのアーティストの歌唱を聴いてきましたが、別格の風格と存在感が漂っていました。途中、歌詞を羅列しながら、ラストのサビへと持っていく過程は何回聴いても感動に包まれます。彼女の深く温かい声は、今まで聴いたことのないような包容力に包まれていました。感情の盛り上げ方の巧さと凄みは、他を寄せ付けません。
初のシングルCDへの思い入れは痛切に伝わってきました。訓練と努力の賜物がここに結実したといった感じです。舞台俳優として活躍してこられただけあってこの表現力はただものではありませんでした。
本当はもっと評判になっても良いはずなのにという応援の思いを込めて書きこんでいます。テレビで取り上げられることは少ないかも知れませんが、このような歌を歌える歌手を大切にしてほしいと痛切に願っています。日本には大人の歌唱がしっかりと評価されるだけの音楽土壌が根付いていないのかな、と思ってしまうほどです。