本社の海外戦略担当向け
★★★☆☆
多くの大学研究者が認めるとおり、本書はグローバル戦略策定の現段階での最先端に位置する著作である。理論だけでなく、具体的なケースでも説明され、戦略立案を行うために検討すべき具体的な評価軸が提案されている。そのような点で、本書は理論と実際の両面を兼ね備えた書である。但し、この本で書かれているグローバル戦略は、あくまで本社の世界戦略を担当する人向けのものであり、各地域の現地の担当者への示唆は少ない。
タイトルと章立て
★★★☆☆
については、「おもしろ」感を出しすぎてて、
実際の内容とそぐわない気がしました。
実例も、それほど豊富に掲載されているわけでもなく
著者の理論8割+おもしろ実例2割が実際なので。
グローバリズムに警鐘を鳴らす系
この本の要約
★★★★☆
この本の要約。
私が断固として言いたいのは、国内と国外で行うことが出来る経済活動のほとんどは、いまだに国ごとの地域色が極めて濃いのである。
日本コカコーラでのコーラの売上げは全体の一部でしかない。売上げと利益の大半は缶コーヒーやお茶などで、合計で200種類以上の商品がある。日本ではコーラへの嗜好が限られ、自動販売機に多くの種類を揃える必要があり、日本人が新し物好きなので、毎年100種類もの新製品を投入する必要がある。日本での主力商品である「ジョージア」も、当初はアメリカ本社が猛反対で非協力的だったために、本社(ジョージア州アトランタ)への皮肉をこめて命名された。
私が行った調査では、経営者の4分の3以上は、国際統合が進めば売り手は少数に集中すると思っている。しかし、実際のデータによれば、グローバルまたはグローバルしようとしている企業18社の平均には、そんな傾向はない。集中度が高いのはソフトドリンク業界のみで、他の業種では「規模の経済」が誤解されているのである。
実際の世界経済は、セミ・グローバル状態である。この先数十年は、このセミ・グローバル状態が続くであろう。
セミ・グローバル化した市場では、国ごとの差異も類似点と共に考慮しなくてはならない。差異が及ぼす影響は、類似点が及ぼす効果よりもずっと大きい。
世界一の売上げのウォールマートでも、2004年、海外市場9カ国のうちで利益を上げたのはメキシコ、カナダ、プエルトリコ、イギリスの4カ国でしかない。これらの国は、文化的、制度的、地理的、経済的な面でアメリカに似ているという共通点がある。その他の5つの国は、ブラジル、ドイツ、アルゼンチン、韓国、中国である。
NAFTA締結前の1988年、カナダ国内のおける州と州との間の貿易取引は、同じ規模で同じ距離にあるアメリカの州との貿易を比較すると20倍も大きかった。それだけ地元同士の取引があった。その後、NAFTA締結後は、国内貿易と国際貿易の割合は20対1から1990年代半ばには10対1に縮小したが、現在でも5対1である。これはモノの貿易のみなので、サービス業はこの数倍ある、つまり、地理的に近くて似ている二カ国でも、国境は依然として大きな存在であり、セミ・ゴローバリゼーションになっている。
マクドナルドは地域文化に配慮したメニューを設けている。フィリピンでは甘いバーガーであるバーガーマクドやスパゲティがある(しかし、スパゲティの本場イタリアにはこのメニューはない)。インドではヒンドゥー教徒に配慮して羊肉のバーガーがある。また、中国、台湾では、パンの代わりにご飯を使ったライスバーガーがある。
ボストン・コンサルティング・グループが提唱する、コスト削減しながら、新興市場に早く適応する製造手法とは、工場を使い捨てにすることである。使い捨て工場とは、短期的に大量生産を行うためだけの労働集約的な工場である。使い捨てにすることによって、工場の建設コストが大幅に削減され、商品ラインの幅は持たせられないが、単製品の大量生産には向いている。
中国のビジネス界では、海外からの投資を積極的に取り入れるために、外国企業に有利な税制、法的保護、優遇制度を多数設けている。しかしその結果、国内企業がその恩恵を得るために、投資資金をわざと海外に移して香港経由で中国に投資している。公式な統計によると、中国に流入してくる海外直接投資の3分の1以上は、もともと中国国内の資金である。
経済協力開発機構の最近の調査によれば、中国の研究開発のレベルは日本を越えたとしている。その根拠は、「中国の科学技術者の人件費は公式為替レートで計算すると日本の人件費の4分の1なので、中国の研究開発費を4倍すると日本以上になるから」であった。
二国間での貿易では、類似点があるほど貿易の量が多くなる傾向にある。私のデータによれば、以下のように5つの共通点を持つ二カ国の貿易額は1.42*1.47*2.88*2.14*2.25=29倍となる。
「フラット化する世界」との単純な比較とみると読み間違える
★★★★☆
本書は「フラット化する世界」との比較で語られることが多い。
とはいえ、これらは、見ようとしている経済の枠組みが違うことを理解すべきであろう。
「フラット化する世界」は、ジャーナリストが一般の人に向けた啓発書である。
インターネットの発達により情報の格差が無くなり、安い労働力を求める競争が
世界に広がるという主張である。そういった意味では、本書「コーク・・・」の
裁定の部分だけを取り出しているように見えるのだが、実は、著者が伝えようと
している対象は、企業、経営者ではなく、一般の人である。
一方で、本書は、ビジネススクールの教授が、経営者に向けて書いた教科書である。
つまり、グローバルに展開する際に、考慮すべき注意点を提供している。つまり、
完全なグローバリゼーションは当面起こることはなく、セミ・グローバリゼーション、
国ごとの差異、利益の根源を的確にとらえることこそが成功のポイントであるとの
趣旨で、その戦略が「集約」「適応」「裁定」であり、戦略の評価の手法としての
CAGEやADDINGなどを紹介している。
そういった意味だと、本書は出版社の意図で、さも少し前に出た「フラット・・・」
への反論を述べているかのように見えるのだが、実は全く次元の違う書籍である。
「フラット・・・」は、比較的長いスパンにおいて、世の中がどのような方向へ向けて
変化しているかを示し、「コーク・・・」はその変化の過程の中で、近い将来において、
どのように企業は勝ち抜いていくかを示している本と見ることができる。
有用なフレームワークが豊富なグローバル戦略本
★★★★☆
本書は大きく分けて三部構成となっている。初盤では、「確かにグローバル化は進んでいるが『フラット化』はしていないよね」という主張を、コカコーラ社の極端な戦略の失敗を事例に説明。さらに、なぜそんなに単純なものではないかというのを、文化・制度・地理・経済の差異に注目したCAGEフレームワークを用いて解説する。個人的には、4要素の差異が業種によってどのように異なる影響を及ぼすのかという考察が大変興味深かった。
中盤では、「それでもなぜグローバル化が必要なのか」をADDING価値スコアカードという(販売数量の伸び、コスト削減、差別化、業界の魅力向上、リスクの平準化、知識の創造という6つの要素に注目した)フレームワークを用いて整理。最初はなぜこの6点なのかと疑問に思ったが、企業が生み出す経済的価値を「販売数量」「マージン」「リスク(割引率)」「知識等の無形経営資源」に分解し、「マージン」を「業界の魅力度」「(業界内の)比較優位」に、さらに「比較優位」を「相対的コスト競争力」と「相対的顧客支払意思価格」に分解するという図式を示されたときに、大いに納得できた。このフレームワークは、海外進出に限らずM&Aや異業種進出等にも応用できる非常に有用なものだと思う。
終盤では、「ではどのように各国の差異を付加価値に転じるか」を、AAA戦略と称して、適応・集約・裁定に注目してそれぞれ具体例を示しながら解説していく。3つのA戦略のうちどれを優先して追及していくべきかについては、業種ごとに異なるコスト構造に着目して指針が示されており、非常に分かり易かったが、それぞれの戦略については結構難しく理解するのに時間を要した(特に集約戦略)。事例は豊富に紹介されているのだが、背景から丁寧に解説されているわけではなく、その事例が提供してくれる本質的な学びを消化できなかった感が残ってしまった。