1949年から53年にかけて、ロバート・フランクは写真を撮るために、移住先のニューヨークから頻繁にヨーロッパに戻り、フランス、スイス、スペインや英国を訪れた。その写真からは、彼独特の人道主義、詩的な感性や現実主義的な視点が培われていく様子が見て取れる。1951年と52年のはじめ、フランクはロンドンを訪れている。「光が好きだ。霧が好きだ」と言って、ロンドンがかもし出す雰囲気を写真に収めた。フランクが撮ったのは、伝統的な山高帽とロングコートをまとった金融家たち。そこにはまるで、霧の中なかを空想的なダンスを踊るかのようなイメージが作り出されていた。労働者、炭坑で働く人々、ストリートで遊ぶ子どもたち、公園で待ち合わせをし、くつろぐ人々。そして貧困の様子が撮られた。このように金と労働、富と貧困を並べることで、社会の全体像をみごとに映し出した、先例のないダイナミックなプロジェクトが作り上げられたのだ。そして1953年3月、炭坑の国有化が差し迫っていたときのことだ。フランクはウェールズのCareauという町を訪れ、炭坑近辺に暮らす労働者の姿を撮影。炭鉱労働者の一人、ベン・ジェームズと彼の家族が、フォト・エッセイ(当初は1955年に出版されたU.S. Camera誌に掲載された)で取り上げられた。フランクは、典型的なモダニストの写真ではなく、型にはまらない刺激的な瞬間を撮影することを選んだ。かしこまったものではなく、ふとした瞬間を重視したのだ。
『Robert Frank: London/Wales』 で著者は、長いこと受け入れられなかったものに初めて立ち返ったのだ。本書の中で、私たちは彼の作品に生じた変化を知ることができる。彼の写真が斬新なロマン主義から、より激しい比喩的なリアリズムへと変遷する時期が取り上げられているのだ。また、1951年と53年に続けて行われたこの2つのプロジェクトは、本書からほんの数年後に完成する斬新なドキュメンタリー写真集『The Americans』の舞台を整えることにもなる。
「You got eyes(君には目がある)」―写真家ロバート・フランクについて述べたジャック・ケルアクの言葉
序文はフィリップ・ブルックマンが寄せている
ハードカバー、9×11インチ、208ページ、90点の3色刷り