プリペアードピアノをどう評価すべきか
★★★★☆
他のレビューアが書いているように、ファジル・サイによる、4手バージョンをもとにした、ピアノ(プリペーアドピアノを含む)多重録音による「春の祭典」、である。オリジナルのオーケストラ版とも、単なる4手ピアノ編曲とも異なる、一種独特の空気を生み出している。
上記のような「設定」を知らずに聞き始めると、「いったいこの人何本手があるのか」、という印象を受けるくらい多重録音そのものはうまく出来ている。ただし、古典的なピアノ演奏の多重録音ではなく、現代音楽における演奏法であるところのプリペーアドピアノを含む多重録音なので、こういった演奏に聞き慣れない私のような人には「ピアノ演奏」として聴いてしまうと非常に違和感があるのは確かだ。
また、通常のオーケストラ版ではD-トランペットやEs-クラリネットといった様々な管楽器や打楽器の色彩に隠れてしまう微妙な和音が、このCDでは非常にきちんと表現されている。「結構綺麗な和音を使っているのね」、と認識を新たにした。ブージー&ホークスのオーケストラ版スコアが実家にあるので、次の帰省の時に持って帰り、色々と「確認」するつもりだ。
うめき声が録音されているピアノのCDは基本的に大嫌いなので、4☆とする(うめくくらいなら、ちゃんと発声してテナなりバリトンのパートで多重録音されてはいかがか)。
「オ」プティミズム!
★★★★★
ストラヴィンスキィと言えば「オ」プティミズム系の旋律を作曲したことで有名だが、その楽しさを ファジル・サイは余す所無く 表現しきっている。これほど 心身ともに楽しくなってくるピアノ演奏が在ろうか!
超絶演奏ならポリーニ・カツァリスといった名手が居るが、彼らのように 楽譜に忠実に演奏しようとする余り ストラヴィンスキィ的「オ」プティミズムを 表現し切ることは不可能でしょう。
そういう意味でも 真面目で責任感が強く 普段 騒がない、A型性格 つまり、鬱病に成り易いor自殺しやすい 方々に 是非とも 聞いてもらいたい 素晴らしい 音楽と その表現だ!
ファジル・サイのテクニークのレヴェルの高さについては 今更 私が書くことも無いでしょう。素晴らしいです。
逆の「ペ」シミズム系は何と多い事か!
スクリャービン・ラフマニノフ・ショパン・ベートーヴェン・・・挙げ出したら切が無い。
そういう音楽も必要だけど、日本人は古来から「ハレ」によって禊・祓いをしてきたはずだ、現代人には「ハレ」が少な過ぎるのだ。
さあ、天岩戸に閉籠もっていないで、この音楽で禊ぎ・祓い、「ハレ」に成ろうではないか! それこそ 今の日本に必要な事だろう?
神の手
★★★★★
「春の祭典」が1曲のみ。31分間の作品。しかしこれ以上はいらない。神の手から紡ぎ出される音は、重厚で狂気に満ちてさえいる。多重録音による作品は、長い年月をかけて完成された。機が熟するまでに時間がかかったらしい。これは聴くべき作品だ。聴いて絶対に損はないと思う。
単なるピアノ編曲じゃないよ!編曲・演奏がすごいぞ!
★★★★★
この曲はもともとストラビンスキー自身がバレエの練習用に4手のピアノ編曲を作ったのが始まり。たいていの場合は2台のピアノで演奏されます。ファジル・サイはそれを多重録音で1人でやってます。しかし、単なるピアノ版ではありません。作曲家でもあるサイはオリジナルの編曲を施してます。彼の作品で「ブラック アース」というピアノ曲がありますが、あれと同じ特殊なピアノ奏法を使っています。まるでアフカの民族楽器のような土俗的な響き。TVでこの奏法を見たとき「あ、こんな簡単方法でやっているの?」とびっくり。ジョン・ケージのプリペアドピアノをプリペアドでなく即興でやってるのです。種明かしをすると片手で直接ピアノ線にふれてもう一方でキーをたたき「ビヨン、ビヨン」という音をだす。それを「春の祭典」でも効果的に使ってます。