彼の音楽がもたらす高揚感や陶酔は、まるでテクノのそれに似て、問答無用、理屈ぬき、脳と身体に直接訴えかけて、じっとしていられなくなります。
正確無比と称される彼の音楽。でもライブ映像を見ると、演奏中に起こるわずかなブレや揺らぎに気づきます。だけど、だからこそ、彼の「完璧」さがよりエキサイティングに聴くもの(観るもの)に迫るのではないでしょうか?録音では削られてしまうこの「揺らぎ」の効果を、映像で感じることができたことは大きな喜びでした。
孤高の演奏家と言われるハイフェッツ。眉間にしわを寄せ、渋い表情で淡々と演奏する彼の姿。いったいどこに、聴くものをこれほど熱狂させる力を秘めているのでしょうか?彼の音楽は「孤高」ではありません。彼の音楽は常に聴衆に大きく開かれ、聴衆を招いています。
彼の音楽は、まさに美の体現。美とはこうあるべきだ、といつも教えてくれます。彼をライブで見る機会が永久にないことが私の不運ですが、このDVDで動くハイフェッツを見ることができたのは、この上ない幸運でした。
「ハイフェッツがカーネギーホールでコンサートをする、それが芸術だ」---ウッディ・アレン(『さよならさよなら、ハリウッド』より)