平和構築において最も重要な点は、「法の支配」に基づく社会作りを進め、暴力に拠らない紛争解決のメカニズムを確立することである。通常は、「正義と平和」といった対峙でとらえられる問題を、著者は「司法と平和」という視点で議論し、司法を個人の罪の追及、平和を社会の問題ととらえる。また、和平合意と紛争成熟度の概念をリンクさせ、未熟な段階での和平合意は平和構築の害となるといった論は説得的だ。和平プロセスの流れを、和平交渉→和平合意→平和構築と時系列的に把握するだけでなく、和平合意がない段階で進められた平和構築に関する分析も行っており大変興味深い。
得てして学者先生方のこの手に関する本は、「私は『平和構築』をこのように独創的に概念規定してみました、わっはっは」で悦に入り、現場で働く者にとってお勉強にはなっても活動する上では何ら参考にならないものであったりしますが、この本は「平和構築活動」の目的実現に向けた戦略的な視点を見出そうとする観点から丁寧な論解説を進めており、好感が持てます。
紛争の最大の原因を「法の支配」の欠如という制度的な側面に見出すか、貧困という経済・社会的な問題に見出すか―著者は、制度的な側面も重視し、「平和構築」において「法の支配」を確立するという政治的な活動に注目している点も興味深い。