日本もようやくドイツを意識するようになった現在
★★★★☆
2008年度の補正予算で、エネルギー関連予算では、太陽光発電への予算が復活した。再生可能エネルギーのうちでも、あえて太陽光というのは、その累積導入量がドイツに抜かれたということに起因する。風力でもバイオマスでも遅れていた日本にとって、唯一他国に誇れる実績があっただけに、関係者のショックは大きかったのだろう。
こうなった理由は、日本の再生可能エネルギー普及政策における失敗にある。補助金だけでどうにかなる、というものではなかったということだ。
以前から、多くの識者が、ドイツの政策に注目すべきだという発言を行っている。そのドイツの再生可能エネルギー普及の状況について、現場からレポートしたのが、本書である。ドイツの政策の特色は、2点ある。1つは、「固定価格買い取り制度」である。RPS制度と異なり、電力会社は再生可能エネルギーからの電力を決められた価格で買わなくてはならない。日本では、太陽光発電に限って導入された。
しかし、より重要なのは、2点目として、こうした政策が市民ぐるみで実行に移されているということだと思う。固定価格買い取りは市民が再生可能エネルギーに対して投資しやすい環境をつくる。また、電力会社も結果として電気料金に上乗せすることになるが、そのことが国民的な合意となっている。つまり、ドイツのエネルギー政策の主役は、あくまで国民である、ということだ。
日本もこれから、低炭素社会に向けて再生可能エネルギー開発を促進しなくてはならない。そのときに必要なのは、国民の目線どころか、ドイツと同じように国民の合意なのではないだろうか。政府や電力会社の都合ではなく、国民が主役になってこそ、低炭素社会が構築できる。本書はそのヒントを与えてくれる。
ドイツの再生可能エネルギーへの本気度が理解できる
★★★☆☆
ドイツで生活していても、特段、政府が再生可能エネルギーを推進しているということは実感できない。住んでいるデュッセルドルフでは、ソーラー・ハウジングという太陽光パネルを設置した住宅団地があるが、注目したのはそれくらいである。あと、ちょっと田園に行くと風力発電機がたくさんあり、私はこれの近くに行くととてつもない恐怖感を覚えるので、それが印象に残っているくらいであった。しかし、この本を読んで、ドイツの再生可能エネルギーにかける意気込みがとてつもなく本気であることが理解できた。
個人的には興味深かったことは「日本では、主として原発立地地域への交付金などに充てられている電源開発促進税として、2000年当時キロワット当たり44.5銭が電気料金に上乗せ徴収されていた」ことである。これは迂闊にも全く知らなかった。ドイツでは再生可能エネルギー推進用に同年時ではキロワット当たり32銭徴収していたのだが、これより多くの税金が、原発促進のために徴収されていたなんて驚きである。実は、ドイツの取り組みより、この事実が最も印象に残っている。
さて、全般的には取材した情報をそのまま記述していて、たまに著者の感想が付け加えられたような内容になっている。とはいえ、このスタイルによって逆に状況が正しく伝達されているといえるかもしれない。正確に状況を把握したい読者には、この淡々としたスタイルは有り難いであろう。一点、気になるのは著者の写真が数多く載っていること。奥さんの写真も多すぎである。失礼ながら著者そして奥様もあまりフォトジェニックとはいえないと思うので、これはまったく不要だなと思った次第である。本自体は4☆でもいいのだが、この写真が多すぎるのでマイナス1で3☆。
自然エネルギーに取り組むものには必読のレポート
★★★★☆
如何に、制度枠組みによって社会が変わるのかが分かる。
特に、つぶさに現地を調査した内容からドイツがFITで自然エネルギーに
よって地域社会が再生したのか明らかにされている。
一方、日本は拙速に作ったRPS法が、見事にリニューアブルパワーストッ
プ法となった事実に慄然とする。
同じ市民共同発電所を私たちは心意気で作らねばならず 、先行プロジェク
トほど劣悪な経済性に喘ぎながらCO2と放射性廃棄物を生まない「きれい
な電力」を社会に供給している。
この事実をまえに未だに「自然エネルギーは気持ちだ」などと言っている時
代遅れのNGO・NPOがある限りはこの国で自然エネルギーが普及するこ
とはないだろう。また、RPS法の環境価値の残りかすをグリーン電力証書
というお札に変えて商売にいそしむ限りはまともな自然エネルギー普及の未
来はにだろう。
よしんば、普及したように見えても、真にその価値は地域社会や普通の暮ら
しをしている人々のものにはならないだろう。
本来はその価値は生産地域にそしてその設備に投資した人々に帰属するもの
がこの国では巨大な電力企業に奪われて行ってしまうだけなのだ。
この事実を放置することが、未来世代を温暖化して荒廃する未来に放り出す
ことだと言う認識に欠けているのではないだろうか?
今日の日経新聞のトップ記事は 7月末で 銀行にマネーが集中し対貸出金
の預金超過が145兆円にも上っているというニュースだ。先日はタンス預
金が40兆円とも報じられていた。
この金は放っておけば劣化するだけだ。実体経済が縮小に向かうだけで、そ
の価値はインフレで無くなってしまう。なのに、この資金は未来を支える真
の生産に向けて投資されることがないままでタンスや銀行の金庫の中で腐っ
ていくのだ。
一方、ドイツは一地方都市アーヘンに始まったFIT「発電原価補償長期買
い取り価格支援制度」によって社会の資金の流れを変えて、正しく生産財へ
とマネーを太陽電池や風力発電機という生産財の形に変えることに成功した
わけだ。
そして、そこからは実際に○○○○Kwhのきれいな電力という未来を支え
る実体財が生み出されているのだ。
※日本がRPSではなくFITにしていれば、私の友人が自分の車のドア
ミラーで首を括ることもなかったし南九州で一番と言われた太陽光発電
の代理店が倒産することもなかっただろうし、オール電化でお得ですと
か騙されて原発の電気を押し売りされて太陽光発電の電力を買い叩かれ
ることもなかっただろう。そして、この失敗の一番の犠牲となるのはこ
れからの時代を生きる未来の世代である。
ドイツのエネルギー政策と実践 日本との比較を視野に
★★★★★
2度の気温上昇で、自然環境の激変が予測されています。この温暖化を防ぐには、CO2の削減が効果的です。削減の為に、○エネルギー使用量が少ない生活流儀を確立。○化石燃料(石油や石炭)を減らし、再生可能エネルギー(風力、太陽光、バイオマス等)を使う。○危険な原発は増設せず、廃絶する。ドイツでは、1998年の社会民主党/緑の党連合政権時以来、政権が変わっても、この目標に着実に向かっています。
その現状を、北端の町を中心に詳細に現地調査された報告です。市民が共同出資で有限会社を作り、発電所を建設運営。財政的裏づけは、電力供給法1991や再生可能エネルギー法’04が、定めた電力買取補償制度です。この制度で、発生電力は電力会社に買い取られ、その収益で、発電所建設の経費は相殺され、さらに次の設備が導入できる。買取財源は、石油などに課せられた環境税の税収を当てているそうです。計画の履行は順調で、原発も、2020年頃に、ほぼ廃絶を予定。また2030年までに発電総量の45%を、再生可能エネルギーで賄う。再生可能エネルギー開発に伴う新産業、雇用の拡大もあるそうです。
これらが、我が国の状況と比較されています。経済産業省が、「新・国家エネルギー戦」'06で、「原子力発電立国」という方針を発表。原子力発電所を増設、’30年以降でも発電総量の30ー40%以上にし、軽水炉だけでなく、高速増殖炉、核融合エネルギー技術も開発。その技術を外国にも広める予定です。再生可能エネルギーだけでは、経済成長は維持できない。その為CO2を排出しない原子力をも、使う案です。しかし原発は暴走すれば、環境を破壊的に汚染します。著者は、ドイツに倣い、この方針の見直しを主張しています。確かにこの方針を貫くには、安全な原子炉、運用技術の開発。暴発時の対応、被爆者の治療措置を公表し、住民の不安を除くことが先ず必要だと思われます。