嘘の力
★★★☆☆
ある夫婦が離婚にいたる話である。いや、正確には、他者の介入によって離婚に
追いこまれていく話である。願わくば、こんな別れ方だけは避けたいなあという
泥沼の状態になって。最初から悪意をもって近づいてくる者たちによって。
話は、主人公の「わたし」が仕事の関係で知り合ったユカリに、彼女の知人でよく当たる
占いをする須貝という男に引き合わされるところからはじまる。
少し読み進めばうさんくささが見えてくる。
「占い」「魔術」「お払い」「御札」などのことばが、ユカリと須貝から吐き出されるようになる。
あろうことか、「わたし」の夫までを巻きこんでいくのだ。夫は、彼女ら二人のことばを疑いすらせずに……。
ことばというものは恐ろしいものだ。
日常のなかのことばは、通常は個々の関係性をつないでゆくためのものであろう。
相手のことばを素直にうけとれない場合でも、即座に反駁したり真意を追究したりすることは、しないのが普通だ。
面倒なことになるのをとりあえずは、避ける。
そして、自分の「NO」という気持ちとはうらはらに、“あなたとわたし”の本意ではない関係が一歩進んでいく。
「友だち」「知り合い」の顔をして、ずかずかと踏みこんでくる他人に対して、いったい
どれだけの人が「これ以上、私に関わってくれるな!」とはっきり宣言できるだろうか。
そういう人と人との間隙をユカリと須貝はぐいぐい突いてくる。「占い」を免罪符にして、
十重二十重に嘘を仕掛けるのだ。
読んでいてもどかしい思いをした。読み手には全て見えているのに、わたしが引きずられて
いく現実が圧倒的な力で進んでいくからだ。
「さよなら、日だまり」というには、あまりにも愛も信頼も尊敬も希薄な、夫婦であり家庭で
あったのに、どうしようもない修羅場をくぐりぬけた「わたし」にはやはり「日だまり」の日々
であったのだろう。知りたくもない、人の悪意に翻弄された今となっては……。