不倫の恋と病弱な娘に揺れる心
★★★★★
ルーゴン・マッカール叢書の中では地味な一巻かもしれないが、
パリを見下ろす小さな家に暮らす母娘と、たまたま診察することになった医師の関係が三角関係のようにつづられる。
特に医師への恋を徐々に自覚し始める母の、一家とのなにげない庭での団欒の場面は、一見牧歌的なブルジョワ家庭の情景の中、よけいに妙にスリリングに感じられてドキドキしました。
ルーゴン・マッカール叢書の中でも、政治や社会の大局的な流れからは外れたところにあるかもしれませんが、抑えに抑えても、堰をきって雪崩れてしまう恋愛感情の激しさ、という意味では、「ムーレ神父の恋」に匹敵する悲劇的な物語といえます。
それにしてもゾラはどうして、これだけ男女の機微に精通することができたのか。
病弱で激しく嫉妬する娘への想いと、予想外にやってきた激しい恋の恍惚に引き裂かれて揺れ動く母の心情が、痛いほど伝わってくる見事な小説です。