出産という生命誕生の多様性に改めて驚嘆の念を覚える
★★★★☆
世界各地での出産にまつわる物語が同時進行で繰り広げられていくドキュメンタリー。
その昔は日本でもお産婆さんがいて、自宅や助産所での分娩が珍しくもなかった。今では産婦人科で産婦人科医によって分娩が執り行われるのが日本における常識となっている。そういった固定観念に対して、世界の多様性を改めて思い知った。
ある少し新興宗教的ノリのフランスのカップルは、アメリカの自然溢れる湖畔で友人たちの見守る中医者も助産婦もいない状態で完全な自然出産を試みる。
メキシコに渡ったフランスのカップルは、イルカの戯れる海岸そばのプールで水中出産を果たす。
ベトナムのある病院では毎日140人の新生児が生まれる。
シベリアに住むアジア系遊牧民の女性は氷点下50度の外部環境で出産後すぐの生活を新生児とともに始める
アフリカでは、砂漠地帯の中のテントで生贄の山羊を供しながら儀式的に出産がなされる
子供も女性も生命力を携えており、本来自力で生まれてくる能力が備わっているのだという。医者や病院はその観点から、異物的存在であり、不自然なものである。
そういった内容の発言が出てくる。
正解はない。しかし、我々はそれぞれが自分を取り巻く文化的コードの中で生活を営んでおり、時々外からその様子を見てみるのは大いに視野を広げる材料となる。
みんなで産めば怖くない かも
★★★★☆
ドキュメンタリー98分。
新月の闇のなか赤外線カメラが女たちの表情を捉える。いよいよ生まれる。
妊婦と胎児が無事でありますように。
神に祈りを捧げるために、供物として仔ヤギの頭を落とす。
広大なサハラ砂漠の夜、砂に頭を押し付けて祈り続ける。
新しい生命を産み落とす女性の姿。
ひとりでは乗り越えられないので、妊婦によりそい励まし続ける母親や夫、医師、友人(お産を助けるイルカまで!)らを緊迫感と共に追い続ける。痛みのあまり涙を流す妊婦の脚のあいだから、胎児の頭が見えて、へその緒(あんな風になってるのか。灰色のソーセージみたい)を延ばしたまま取り上げる。
親は国によって顔が違うけど、生まれた直後の赤ん坊の顔ってあまり変わらないですね。
映像的に素晴らしいのは、アマゾンの原住民のお産で、妊婦は全身に絵の具でペイントをし、真夜中に焚き火のそばで産み落とす。ゆれる炎に照らされた部族の女たちの表情は敬虔で息を飲むほど美しく、原始的な出産方法とはかくも神秘的な。この映画はほかにもホーチミンから日本、たくさんの妊婦とその女を気遣う人(とイルカ)が出てきてみんなで「お産をする」、という1本。
フランス系のインテリ妊婦が登場。「出産に危険はないけど、病院と医療技術はそうじゃないわ。人類にとって大昔から出産はあたりまえのことだし、女性は強い」と言い放ち、自力出産に挑戦する。医師の手を借りない自然なやり方と言っても大勢の人手が必要なんですよ、あれは。
なんとか赤ん坊を産み落としたあと、後産(胎盤のこと。赤ん坊を産み落とした直後にどばっと排泄する)が30分以上経過しても出てこなくなり・・・あわや友人の手で後産をひっぱりだす・・・というシーンまで収録。
ちなみにこのフランス人、お腹が大きな姿でヌードクロッキーのモデルをやっていたが、ヨーロッパでは「妊婦の美術モデル」って別に珍しくないらしい。日本ではあまり聞かないけど。知り合いの絵描きも留学中に妊婦を描いたそうで、「いつ生まれるんですか?って聞いたら一か月後って(笑)。絵描きにとって妊婦を描くのは、1枚に2人描くから大変で・・・」と言っていた。
これからお産をする若い女性だけでなく、むしろそれ以外の人に観てほしい映画だ。地球の上で連綿と繰り返されるお産もみんなですれば怖くない、のだ。
今日も世界中で多くの産声があがっている
★★★★★
まず、男性監督が撮ったという事実に驚かされる。
出産前日まで踊るダンサー。医者どころか助産師も使わずに産む原理主義的なコミュニティでの出産。イルカの鳴声は胎児にいい影響を与えると主張するイルカ出産。患者が多すぎて廊下にまでベッドを並べて産むベトナムの産科。
自然分娩の良否以前に、今日も世界中で多くの方法で、多くの赤ん坊が産まれているという事実に、本作を見る妊婦や出産を控えた家族は、厳粛な気持ちになるだろう。
出産は、女性にとって、家族にとって、本人にとっても極めて重要で大きなイベントにも関わらず、その多様性をカメラに収めたドキュメンタリー作品は他によく知らない。その意味でも価値のあるフィルムだと思う。
助産師も呼ばず自宅出産するアーティストが、胎盤の摘出ができず危機に陥る場面があり、それを見た多くの人は、やはり出産には医師・助産師が必要だと考えるだろう。分娩方法の多様性や自然に近い分娩方法を無条件に肯定しているのではなく、ニュートラルな視点に好感が持てる。
ただ、出産に関心がない人には、ほとんど退屈でグロテスクな映画になるだろう。
出産と誕生の多様性
★★★★☆
命の数だけ出産があり、誕生があるということを改めて感じさせてくれるドキュメンタリー映画でした。
日本も含め10カ国で撮影されたという出産の映像は美しく、女性の生命力を映し出していて圧倒されます。出産の痛み、不安、喜び、悲しみ、全てを乗り越えていく命のたくましさ(10の出産のうち砂漠の民として出産する女性は誕生死を経験することになります)。
こう書くといかにも自然分娩万歳な内容に思われるかもしれませんが、帝王切開あり、大病院での出産あり、産み方生まれ方の多様性が描かれていて、それらを「評価」しようとする価値観の矮小さがあぶり出されるような内容であると思います。
皆既日食と結びつける演出は、リアリディーを殺いでしまっているような気がして私には不要に感じました。
産み方は生き方、そう考える人は必見でしょうし、これから産む、産むかもしれない女性は見ておけば、それが人生においてどんな経験であるのか考える良いきっかけになるでしょう。。
子供は親を選べない
★☆☆☆☆
皆既日食と結び付け、神秘的な一種の儀式として出産を描こうととした異色のドキュメンタリー。妊娠中○反対の立場をとる共和党の強力指示団体であるディズニー製作と聞いて嫌な予感がしていたのだが、本作品は出産=神の御業と考える中○反対派及び少子化防止のためのプ口パガンダ映画である可能性が非常に高い。あまりにも妊娠から出産へのプロセスを神格化しすぎる演出に嫌気がさし、途中でDVDを見るのをやめてしまったほどである。
のっけからプール出産(修正なし)ではじまるこの映画は、(特に男性にとっては)ちょいとキツすぎるモンド・ムービー的なシーンが続くせいか、残念なことに日本ではPG−12指定を受けてしまった。フランス人監督らしい生っぽい肌触りが特徴のドキュメント映像は、あの『皇帝ペンギン』とちょっと見似ているのかもしれない。ネイチャーものがあまり得意ではない人にとっては、かなりつらい98分間になることだろう。
最後まで見ていないのでえらそうなことは言えないのだが、(怪しげな助産婦が)妊婦をわざわざカリブ海まで連れてきてまでイルカの鳴き声を胎児に聞かせにゃならんのかが全く理解できないのだ。出産が女性の一大イベントであることは重々承知しているつもりだが、何もそこまでして自然分娩にこだわる必要がどこにあるのだろうか。後生大事に産まれた赤ちゃんがちやほや甘やかされて育った挙句のはてに、○麻なんぞに手を出すガキに変貌してしまうプロセスこそ、本当に考えなければいけないテーマだと思うのだが。